判旨
仮処分命令によって債務者が被る財産上の損害が回復し難いものであり、かつ、保全されるべき権利が金銭的補償によってその終局の目的を達し得る場合には、民事保全法上の「特別の事情」があるとして仮処分の取消しが認められる。
問題の所在(論点)
仮処分命令の取消しを認めるべき「特別の事情」の有無、特に、債務者が被る財産上の損害の性質と、保全されるべき権利の金銭的代替性がどのように考慮されるべきかが問題となった。
規範
仮処分命令の取消事由となる「特別の事情」(民事保全法25条1項参照)とは、①仮処分の執行によって債務者が回復し難い損害を被るおそれがあること、および②債権者の保全すべき権利が金銭的補償によってその終局的効力を達し得るものであること、という二つの要件を相関的に考慮して判断される。
重要事実
債権者は、本件山林内における石材の搬出禁止を求める仮処分命令を得ていた。これに対し債務者B1は、岡山県知事の許可を得て大理石(石灰石)の採掘業を営んでおり、鉱業法施行法に基づき採掘を継続する権利を有していた。本件仮処分の継続により、B1は事業の停滞による財産上の損害を蒙る状況にあった。一方、債権者が本件仮処分によって保全しようとした権利は、金銭的な補償を受けることでその目的を概ね達成できる性質のものであった。
あてはめ
まず、債務者B1は適法な採掘権に基づき事業を行っていることから、本件仮処分による搬出禁止はB1に無視し得ない財産上の損害を与えるといえる。次に、債権者の保全すべき権利の内容に照らすと、それは金銭的補償によって終局の目的を達し得る性質のものと解される。したがって、債務者の損害の重大性と債権者の権利の金銭的代替性の双方が認められる本件においては、「特別の事情」が存在すると判断するのが相当である。
結論
本件仮処分には「特別の事情」が認められるため、取消しを認めた原審の判断は正当であり、上告は棄却される。
実務上の射程
民事保全法25条(旧民事訴訟法755条)の「特別の事情」による取消しの要件を整理したリーディングケースである。答案上では、債務者の損害と債権者の保全の必要性を比較衡量する枠組みとして活用する。特に、保全対象が財産権であり、金銭賠償による解決が馴染む事案において、債務者の営業の自由や事業継続の必要性が高い場合に、解放金の供託を条件とする取消し等の文脈で引用すべき判例である。
事件番号: 昭和23(オ)42 / 裁判年月日: 昭和23年11月9日 / 結論: 棄却
民訴第七五九条の特別事情による仮処分命令取消の申立の当否を審理するについては、仮処分により保全せられるべき実体上の権利の存否及び仮処分の理由の有無について判断する必要はなく、もつぱら仮処分取消の特別事情の有無を判断すべきであり、且つ、これを以つて足りる。