一 仮処分により保全される債務者の権利が金銭的補償を得ることによりその終局の目的を達し得る事情と、債務者が仮処分により普通に受ける損害よりも多大の損害を被るべき事情とは、それぞれ独立して別個に特別事情となるものであるから、特別事情による仮処分取消申立事件において、裁判所が後者の事情を顧慮せずに前者の事情だけで仮処分を取り消しても、違法ではない。 二 土地(池沼)の賃借人(債務者)に対する埋立工事禁止の仮処分により保全される所有者(債権者)の権利は、たとえ仮処分の取消により賃借人が埋立工事を続けてこれを畑地としても、またそのため右土地が自作農創設特別措置法の適用を受け強制買収されることとなつても、金銭的補償を得ることによりその終局の目的を達し得るものである。
一 特別事情による仮処分取消の場合における債権者側の事情と債務者側の事情との関係 二 仮処分の被保全権利が金銭的補償により終局の目的を達し得る場合の一事例
民訴法759条
判旨
仮処分の取消事由である「特別の事情」とは、債権者の権利が金銭的補償により目的を達し得る事情、または債務者が多大の損害を被る事情のいずれか一方があれば足りる。土地所有権に基づく仮処分であっても、埋立等により性質が変更されることによる損害が金銭補償可能であれば、特別事情による取消しが認められる。
問題の所在(論点)
仮処分の取消事由である「特別の事情」の定義、および債権者の権利が金銭的補償で代替可能な場合と債務者の過大な損害の発生という二つの要素が、取消しのために併存する必要があるか。
規範
民事保全法(旧民訴法759条)にいう「特別の事情」とは、①債権者側において、保全されるべき権利が金銭的補償を得ることでその終局の目的を達し得る事情、または②債務者側において、仮処分により普通受ける損害よりも多大の損害を被るべき事情をいう。これら二つの事情は必ずしも併存することを要せず、いずれか一方の事情があれば足りる。
重要事実
債権者(上告人)は土地(池沼)の所有権に基づき、債務者(被上告人)による埋立工事の禁止等を求める仮処分を得ていた。これに対し債務者は、仮処分を取り消すための「特別の事情」があるとして取消しを申し立てた。債務者は当該土地を埋め立てて畑地にする工事を継続しており、仮に畑地化した後に強制買収等の対象となったとしても、債権者の受ける損害は金銭で解決可能な性質のものであった。
あてはめ
本件で保全される権利は土地所有権であるが、被上告人が埋立工事を続行して畑地としたとしても、それにより上告人が被る損害は客観的に金銭補償によって終局の目的を達することができる。また、土地が畑地となり自作農創設特別措置法による強制買収の対象となる可能性を考慮しても、その損失の本質は金銭的に評価可能である。したがって、債務者が多大な損害を被るという事情の有無を検討するまでもなく、金銭補償の可能性という一点をもって「特別の事情」が認められる。
結論
特別の事情による仮処分取消しを認めた原審の判断は正当である。債権者の権利が金銭補償により目的を達し得る場合は、単独で「特別の事情」に該当する。
実務上の射程
仮処分の解放金による執行停止とは別に、事情変更等による取消し場面での「特別の事情」の解釈指針となる。特に物の引渡しや作為・不作為を目的とする仮処分であっても、債権者の利益が実質的に金銭で代替可能な性質(交換価値的側面が強い場合など)であれば、本条による取消しの余地があることを示している。
事件番号: 昭和25(オ)265 / 裁判年月日: 昭和27年4月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】仮処分取消の「特別の事情」の有無に関する原審の認定判断について、憲法違反をいう主張が実質的に申請の正当性を強調するにとどまり、認定を否定するに足りない場合、上告は棄却される。原審が疎明ありとした特別の事情の存在を争う主張は、民事上告審判特例法上の重要な主張には当たらない。 第1 事案の概要:上告人…
事件番号: 昭和25(オ)37 / 裁判年月日: 昭和26年6月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】仮処分を取り消す旨の第一審判決が言い渡されたとしても、当該仮処分が当然にその効力を失うものではない。 第1 事案の概要:債権者(被上告人)が申し立てた仮処分について、第一審判決により仮処分が取り消された。しかし、その後、当該仮処分の本案訴訟の第二審において債権者が勝訴した事実が、原審(本件仮処分の…