民訴第七五九条の特別事情による仮処分命令取消の申立の当否を審理するについては、仮処分により保全せられるべき実体上の権利の存否及び仮処分の理由の有無について判断する必要はなく、もつぱら仮処分取消の特別事情の有無を判断すべきであり、且つ、これを以つて足りる。
特別事情による仮処分取消の申立と審理範囲。
民訴法759条
判旨
「特別の事情」による仮処分取消しの審理において、裁判所は保全されるべき実体上の権利の存否等を判断する必要はなく、専ら金銭補償の可能性等の特別事情の有無を判断すれば足りる。
問題の所在(論点)
特別の事情による仮処分取消しの申立てがあった場合、裁判所は、判断の前提として保全されるべき実体上の権利の存否や保全の必要性について審理・判断することを要するか。
規範
民事保全法31条(旧民訴法759条)に基づく「特別の事情」による仮処分取消しにおいて、裁判所が判断すべき事項は、仮処分の維持により債務者が受ける不利益と、取消しにより債権者が被る損害の比較衡量である。したがって、仮処分により保全されるべき実体上の権利の存否や仮処分の必要性の有無については、本制度の趣旨に照らし、判断を要しない。
重要事実
上告人(債権者)は、被上告人(債務者)に対し、田地の返還等を目的とする仮処分命令を得ていた。これに対し、被上告人は、実体上の権利の存否を争うのではなく、金銭補償等の「特別の事情」があるとして仮処分の取消しを求めた。一審および原審は、保証を立てることを条件に仮処分を取り消したため、上告人が「実体法上の権利(賃貸借解約の効力)について判断していない」こと等を理由に上告した事案である。
あてはめ
本件において、被上告人は実体上の権利の存否を争わず、専ら特別の事情の存否を主張している。原審が認定した事実によれば、本件仮処分が維持されないことによって上告人が被る可能性のある損害は、結局のところ金銭をもって償うことができるものであることが明らかである。したがって、上告人が主張する農地法上の許可の有無といった実体法上の論議は、本件取消しの判断に影響を及ぼさない。
結論
特別の事情による仮処分取消しの当否を審理するにあたっては、実体上の権利の存否等について判断する必要はなく、専ら当該特別事情の有無を判断すれば足りる。保証を条件に取消しを認めた原判決は正当である。
実務上の射程
民事保全法31条に基づく取消請求の場面で、債権者が被る損害が金銭賠償により補填可能(償い得べき損害)である場合、実体権利の存否を棚上げして取消しを認めることができるとする実務上重要な判断枠組みを示している。答案上は、保全取消しの可否が問われる場面で、本条の要件検討に際して活用すべき判例である。
事件番号: 昭和29(オ)335 / 裁判年月日: 昭和31年9月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民事保全法上の特別の事情による仮処分取消において、債権者が仮処分により保全しようとする権利が金銭的賠償によって究極の目的を達し得る場合には、それのみで「特別の事情」に該当し、他の争点を判断せずとも仮処分を取り消すことができる。 第1 事案の概要:上告人は、ある権利を保全するために仮処分命令を得てい…