特別事情に基く仮処分の取消申立事件においては、仮処分債務者に特別事情があるかどうかだけを審理判断すればよいのであつて、仮処分債務者の実体上の権利の有効無効又はその権利が被保全権利に対抗し得るものであるかどうかの点について審理判断すべきではない。
民訴法第七五九条の「特別ノ事情」の存否と仮処分債務者の実体上の権利の判断
民訴法759条
判旨
特別事情による仮処分取消において、裁判所は債務者の被る損害の程度等を審理すべきであり、保全される権利や債務者の実体法上の権利の成否・効力についてまで審理判断を要しない。
問題の所在(論点)
特別事情による仮処分の取消しの申立てにおいて、債務者の主張する実体法上の権利の有効性や対抗力の有無についてまで審理・判断する必要があるか。
規範
特別事情(民事保全法17条参照、旧民訴法759条)に基づく仮処分の取消事由の有無を判断するにあたっては、仮処分債務者に「特別事情」があるか否かのみを審理判断すれば足りる。仮処分によって保全される権利の存否や効力、または債務者の実体法上の権利が有効か否か、あるいは当該権利が被保全権利に対抗できるかといった点について審理判断すべきではない。
重要事実
債権者(上告人)は本件宅地に対する占有妨害排除請求権に基づき、債務者(被上告人)による建物建築を差し止める仮処分を得た。債務者は、宅地所有者から土地を賃借し、店舗建設のため建築許可を得て材料も購入済みであったが、仮処分により工事が停止。放置すれば建築許可の取消しや材料の腐朽、多額の賠償責任、営業利益の喪失といった莫大な損害を被るとして、特別事情による仮処分取消を申し立てた。債権者は、債務者の賃貸借契約は地代額が統制法規に違反し無効であるから、保護に値する特別事情はないと主張した。
あてはめ
仮処分の取消事由である特別事情の有無は、仮処分を維持することによって債務者が受ける損害の著しさや金銭的補償の可能性等から判断される。本件において、債務者が建築許可を得て着工直前であった事実や、工事停止による莫大な経済的損失、金銭補償による目的達成の可能性などの事情が認められる以上、それら基礎となる賃貸借契約が実体法上有効か否か、あるいは統制法規に違反するかといった点に踏み込んで判断する必要はない。したがって、原審がこれら実体法上の点について判断を遺脱したとしても、特別事情の解釈を誤ったものとはいえない。
結論
特別事情の認定において、債務者の実体法上の権利の有効性等を審理する必要はない。したがって、原判決が債務者の損害状況等を踏まえて特別事情を認めた判断は正当である。
実務上の射程
仮処分の「特別事情による取消」の要件審査に関するリーディングケースである。答案上は、保全手続が実体法上の権利の最終的確定を目的としない暫定的な手続であることを踏まえ、取消段階においても損害の均衡(比較衡量)が主眼であることを論じる際に、本判例を引用して実体判断の不要性を指摘する。
事件番号: 昭和25(オ)63 / 裁判年月日: 昭和26年10月18日 / 結論: 棄却
仮処分により保全すべき請求が、所有権に基く不動産の引渡及び虚偽譲渡を理由とする右不動産の所有権移転登記の抹消を求めるものであり、起訴命令に基いて提起された本案訴訟における請求が、右譲渡行為を詐害行為として同様右登記の抹消を求めるものであるときは、両者は、請求の基礎において同一性がある。