判旨
仮処分決定に対する異議申立てにおいて、申立人が「特別の事情」に基づく取消しを求める意思を明確に示していない限り、単にその原因となるべき事情を言及したのみでは、裁判所は取消しの要否を判断する義務を負わない。
問題の所在(論点)
仮処分異議の審理において、当事者が取消原因となり得る事実(特別の事情)を陳述した場合、裁判所は釈明や職権によって「特別の事情による取消し」の申立てとして扱い、判断を下すべきか。
規範
民事保全法(旧民事訴訟法)上の仮処分取消しにおいて、保全の必要性の消滅や事情変更による取消し(特別の事情による取消し等)を求める場合は、単なる申立理由の記載にとどまらず、明示的にその取消しを申し立てる必要がある。
重要事実
被上告人(債権者)が上告人(債務者)に対し、不動産処分禁止の仮処分を執行したところ、上告人は被上告人に所有権がないことを理由に異議を申し立てた。その際、上告人は「被上告人が不動産の立木を伐採売却しはじめた」という事情を主張したが、形式的な申立てとしては「特別の事情による仮処分取消し」を独立して行っていなかった。上告人は、原審がこの点について判断を示さなかったことを違法として上告した。
あてはめ
上告人が主張した「立木の伐採売却」という事実は、記録上認められるものの、文脈上は被上告人の無権利を裏付けるための「単に一の事情」として述べられたに過ぎない。上告人の申立て全体の趣旨を勘案すると、それは所有権の存否を争う本案に関連する主張であり、それ自体を独立した「特別の事情による取消し」の申立てと解することはできない。したがって、原審がこの点に判断を示さなかったことは違法ではない。
結論
特別の事情による取消申立てがなされたとは認められないため、裁判所が当該事情について判断を示さなくとも判決に違法はない。
実務上の射程
保全取消しの事由は、保全異議の審理において債務者が主張し得ることであるが、各取消事由の性質(事情変更、特別事情等)に鑑み、裁判所が判断すべき対象は当事者の申立ての趣旨によって画定される。実務上、特定の事情に基づく取消しを求める際は、独立した申立ての体裁を整えるか、少なくとも申立ての趣旨に明示することが必要である。
事件番号: 昭和23(オ)15 / 裁判年月日: 昭和24年9月10日 / 結論: 棄却
特別事情に基く仮処分の取消申立事件においては、仮処分債務者に特別事情があるかどうかだけを審理判断すればよいのであつて、仮処分債務者の実体上の権利の有効無効又はその権利が被保全権利に対抗し得るものであるかどうかの点について審理判断すべきではない。
事件番号: 昭和25(オ)37 / 裁判年月日: 昭和26年6月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】仮処分を取り消す旨の第一審判決が言い渡されたとしても、当該仮処分が当然にその効力を失うものではない。 第1 事案の概要:債権者(被上告人)が申し立てた仮処分について、第一審判決により仮処分が取り消された。しかし、その後、当該仮処分の本案訴訟の第二審において債権者が勝訴した事実が、原審(本件仮処分の…