判旨
債務者が特別の事情を主張して仮処分の取消しを求めた場合、裁判所はその存否を審理判断せずに仮処分を維持することはできず、判断を遺脱した判決は違法として破棄を免れない。
問題の所在(論点)
債務者が仮処分取消しの原因となる「特別の事情」を予備的に主張している場合において、裁判所がこれに答えることなく仮処分を維持した判決には、判断遺脱の違法があるか。
規範
民事保全法上の仮処分取消事由として「特別の事情」(金銭的補償により目的を達し得る等の事情)が主張された場合、裁判所は当該事情の有無について実質的な審理を行い、判断を明示しなければならない。
重要事実
上告人(債務者)は、被上告人(債権者)が保全しようとする権利について、仮に権利が認められるとしても金銭的補償により目的を達することができると主張した。その上で、相当の保証を立てることを条件として本件仮処分の取消しを求める予備的主張を行ったが、原審は当該事情(特別事情)の有無について審理・判断を行わずに仮処分決定を維持した。
あてはめ
記録上、上告人が金銭的補償の可能性と保証の提供を条件とする仮処分取消しを明確に主張していたことは明白である。それにもかかわらず、原審はこれらの「特別事情」の存否について一切の審理判断を行っていない。これは当事者の重要な申立てに対する判断を放棄したものといえ、判決に影響を及ぼす判断遺脱の違法があるものと解される。
結論
原判決を破棄し、特別の事情の有無について審理させるため、本件を原審である仙台高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
仮処分命令に対する取消申立てにおいて、債務者が「金銭的補償による解放」などの特別事情を予備的に主張した場合、裁判所は本案の権利関係のみならず当該取消事由についても判断を尽くす必要があることを示す。実務上、保全取消しの主張がなされた際の審理不尽・判断遺脱を指摘する際の根拠となる。
事件番号: 昭和23(オ)35 / 裁判年月日: 昭和23年12月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民事保全法上の特別の事情による仮処分取消において、債権者が金銭賠償のみでは目的を達し得ない特段の事情があり、かつ債務者に異常な損害が生じる恐れがない場合には、「特別の事情」を否定すべきである。 第1 事案の概要:債権者は、支店として自ら使用する目的で本件土地建物を買い受け、仮処分命令を得ていた。こ…