判旨
事情変更による仮処分命令の取消しにおいて、裁判所が申立人の主張しない事由についても判断を加えたとしても、結論として仮処分決定後に生じた特別の事情変更に基づき一部を取り消したに過ぎない場合は、違法とはならない。
問題の所在(論点)
事情変更による仮処分取消事件において、裁判所が申立人の主張しない申立理由(被保全権利の存否等)について判断を加えた上で、一部取消しの決定をすることが許されるか。
規範
事情変更による仮処分の取消し(民事保全法38条1項参照)において、裁判所は、仮処分決定後に生じた特別の事情、すなわち保全の必要性の消滅や被保全権利の不存在を基礎付ける事後的な事実関係の変化に基づき、仮処分命令の全部または一部を取り消すことができる。この際、判断の過程に申立人の主張しない事項が含まれていたとしても、客観的に事後的な事情変更が認められ、それに基づき一部取消しがなされる限り、その判断は正当化される。
重要事実
本件は、仮処分決定に対し、事情変更を理由とする仮処分命令の取消しが申し立てられた事案である。原審は、仮処分申請債権者の請求権や債権の存否等について詳細に判断を加えたが、これは申立人が主張していない理由にまで踏み込むものであった。しかし、最終的に原審は仮処分決定全体を不当として取り消したわけではなく、仮処分決定後に適法に認定された特定の事情((2)および(3)の事情)を「特別の事情変更」と認め、仮処分決定の主文第三項のみを取り消した。
あてはめ
原判決は、申立人が主張していない理由について判断を与えた嫌いがあるものの、結果として仮処分決定自体の当否を全面的に否定したものではない。原審が証拠に基づき適法に認定した事由は、本件仮処分後に生じた「特別の事情変更」に該当すると評価できる。したがって、これらの事後的事由に基づき、仮処分決定の主文第三項という限定的な範囲においてのみ取消しを認めた原審の判断は、結論において正当であり、手続上の違法は認められない。
結論
仮処分後の事情変更に基づき仮処分決定の一部を取り消した原判決に違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
事情変更による取消しにおいて、申立人が主張する範囲を多少超えた判断がなされたとしても、客観的に事後的な事情変更が認められ、かつ処分が一部取消しにとどまる場合には、裁量の範囲内として許容される余地がある。もっとも、現行の民事保全法下では弁論主義の原則との関係に留意が必要である。
事件番号: 昭和27(オ)745 / 裁判年月日: 昭和29年5月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】仮処分の被保全権利の根拠となっていた行政処分が取り消された場合、被保全権利は消滅したものと解すべきであり、事情の変更による仮処分取消事由に該当する。 第1 事案の概要:債権者は農地等の賃貸借の解約について長野県知事の許可を受け、これを根拠に仮処分命令の発令を受けていた。しかし、後に当該解約許可処分…