判旨
保全命令の取消・変更を認める「特別の事情」(民事保全法39条1項参照)の有無は、債権者に回復困難な損害を与えるか否かで判断されるべきであり、債務者に従前の態様での使用を許容しても債権者に損害が生じない場合には取消等が認められる。
問題の所在(論点)
旧民事訴訟法759条(現行民事保全法39条)にいう、仮処分命令を取り消すべき「特別の事情」が認められるか。特に、債務者に目的物の使用を認める変更が債権者の利益を不当に害するか否かが問題となる。
規範
仮処分命令の取消・変更を認めるべき「特別の事情」の有無は、当該仮処分の執行を継続することによって生じる債務者の不利益と、仮処分を取消・変更することによって債権者が被るおそれのある損害を比較衡量して判断する。特に、目的物件の現状を維持したまま債務者に使用を継続させることが、債権者に金銭で償うことのできないような損害を与えるものではない場合には、適切な担保を条件として、取消または変更が認められる。
重要事実
債権者(上告人)の申立てにより、債務者(被上告人)が製造に使用していた機械類につき、占有を解いて執行吏に保管させる旨の仮処分命令が発せられた。これに対し債務者が特別の事情を理由に仮処分の取消を求めたところ、原審は、目的物件を従前の場所で状態を変更せずに債務者に使用させることを条件として仮処分命令を変更した。これに対し、債権者は物価変動による損害の発生や執行の不備を理由に上告した。
あてはめ
本件仮処分の変更は、目的物件を「もとあった場所でその状態を変更しないこと」を条件として債務者に使用させるものである。これは、目的物件の現状を維持するものであり、債権者に金銭で償い得ないような損害を与えるものではない。債権者が主張する物価変動に伴う損害の可能性は、本件取消事件の判断に直接影響しない。また、債権者自身が求めた仮処分執行の結果として生じる不利益を、取消を求める債務者に負担させることはできない。したがって、5000円の担保を提供させることで、債権者の損害の保障としては十分であるといえる。
結論
債務者に目的物件の使用を許容する変更を認めた原判決は正当であり、特別の事情による仮処分変更は認められる。上告棄却。
実務上の射程
民事保全法39条に基づく「特別の事情による保全取消」の要件に係る。実務上、保全の必要性が消滅したとまではいえないが、現状維持を条件に債務者の利用を認めても債権者に実質的な損害がない場合に、比較衡量の観点から柔軟な解決を図る枠組みとして機能する。
事件番号: 昭和26(オ)649 / 裁判年月日: 昭和28年12月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事情変更による仮処分命令の取消しにおいて、裁判所が申立人の主張しない事由についても判断を加えたとしても、結論として仮処分決定後に生じた特別の事情変更に基づき一部を取り消したに過ぎない場合は、違法とはならない。 第1 事案の概要:本件は、仮処分決定に対し、事情変更を理由とする仮処分命令の取消しが申し…