判旨
仮処分の被保全権利の根拠となっていた行政処分が取り消された場合、被保全権利は消滅したものと解すべきであり、事情の変更による仮処分取消事由に該当する。
問題の所在(論点)
仮処分命令の発令根拠となった行政許可が取り消された場合、民事保全法上の「事情の変更」として仮処分命令の取消事由となるか。
規範
民事保全法上の仮処分命令につき、その被保全権利を基礎づけていた行政処分(許可等)が後に取り消された場合には、被保全権利が消滅したといえるため、「事情の変更」(民事保全法38条1項)により仮処分命令を取り消すべきである。
重要事実
債権者は農地等の賃貸借の解約について長野県知事の許可を受け、これを根拠に仮処分命令の発令を受けていた。しかし、後に当該解約許可処分自体が取り消された。これを受けて債務者が、事情の変更を理由として本件仮処分命令の取消しを申し立てた事案である。
あてはめ
本件では、賃貸借の解約に対する長野県知事の許可が既に取り消されている。この許可は本件仮処分の被保全権利を成り立たせる不可欠な前提であったから、当該許可の取消しによって、一応本件仮処分の被保全権利は消滅に帰したものと評価できる。したがって、仮処分を存続させる必要性は失われ、事情の変更が認められるというべきである。
結論
本件仮処分は事情の変更により取り消されるべきである。したがって、仮処分取消しの申立てを認容した原判決は正当である。
実務上の射程
行政処分を前提とする権利関係に基づき保全処分がなされた後、前提となる処分が遡及的に消滅した場合の典型的な処置を示す。答案上は、保全取消し(事情の変更)の要件を検討する際、被保全権利の存否が行政処分の効力に依存している場合に本法理を援用する。
事件番号: 昭和27(オ)305 / 裁判年月日: 昭和29年6月22日 / 結論: 棄却
買収前の農地所有者が農地買収計画取消の訴訟を提起し、右計画の執行停止決定を得たとしても、買収後の売渡処分によつて右農地の所有権を取得したと主張するものが、その権利保全のためにした仮処分はその理由を失つたものということはできない。