買収前の農地所有者が農地買収計画取消の訴訟を提起し、右計画の執行停止決定を得たとしても、買収後の売渡処分によつて右農地の所有権を取得したと主張するものが、その権利保全のためにした仮処分はその理由を失つたものということはできない。
農地買収計画の執行停止がなされた場合と買収後の売渡処分により農地の所有権を取得たもののなした仮処分の理由消滅の有無
民訴法756条,民訴法747条,行政事件訴訟特例法10条
判旨
行政処分の執行停止決定は、単に当該処分に基づく手続の進行を停止させる効力を有するにとどまり、既に執行された手続の効果を覆滅するものではない。したがって、買収計画に対する執行停止決定がなされても、これに先行してなされた仮処分決定の被保全権利が直ちに失われることはない。
問題の所在(論点)
行政処分(農地買収計画)に対する執行停止決定がなされた場合、当該処分に基づいて生じた権利(被保全権利)を前提とする仮処分決定の効力にどのような影響を及ぼすか。
規範
行政処分の執行停止決定の効力は、将来に向かって当該処分の効力や手続の続行を一時的に停止させるものにすぎない。既に生じた処分の効果を遡及的に消滅させたり、権利関係を確定させたりする効力(形成力や遡及効)は有しない。
重要事実
農地の元所有者が、農地買収計画に対する行政処分取消の訴を提起し、あわせて当該計画の執行停止決定を得た。一方で、仮処分債権者は、当該買収計画手続によって農地の所有権を取得したと主張し、その保全のために元所有者を相手方とする仮処分決定を得ていた。元所有者は、行政処分の執行停止がなされた以上、仮処分の被保全権利は消滅し、仮処分決定はその理由を失ったと主張して争った。
あてはめ
本件における執行停止決定は、農地買収計画に基づく買収手続の「進行」を停止させる効力を有するにすぎない。既に執行された手続によって生じた「買収による所有権取得」という効果を覆し、元所有者の所有権を確定させる効力はない。したがって、仮処分債権者が主張する被保全権利(買収による所有権取得)は、執行停止決定によって直ちに消滅したものとは評価できない。
結論
執行停止決定がなされたことによって、直ちに本件仮処分の理由が消滅したとはいえない。
実務上の射程
行政事件訴訟法25条の執行停止の効力範囲(既往の効力への影響)を論ずる際の重要判例である。処分の効力停止であっても「処分がなかった状態」を作り出すものではないため、民事上の保全手続の要件(被保全権利の存否)を判断する際には、執行停止の有無が直ちに権利関係を確定させない点に留意して論述する必要がある。
事件番号: 昭和28(オ)1216 / 裁判年月日: 昭和30年9月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】仮処分命令の本案訴訟において債権者の請求を棄却する判決が確定した場合、保全されるべき権利が存在しないことが明確になったものとして、当該仮処分命令は維持できず取り消されるべきである。 第1 事案の概要:債権者は、不動産所有権移転登記手続等および不動産所有権確認等を本案とする仮処分命令を得ていた。しか…