一 特別事情による仮処分取消申立事件において、仮処分の取消により債権者の被ることあるべき損害が金銭によつて償われ得るものであることが認められる以上、その他の争点については判断することなく仮処分を取り消しても違法ではない。 二 特別事情による仮処分取消申立事件において、仮処分の取消により債権者の被ることあるべき損害が金銭によつて償われ得るものである事情は、それだけで特別事情となり得るものであるから、裁判所が、右事情の外仮処分により債務者が異常な損害を被るべき事情をも併せて認定し特別事情があるものとして仮処分を取り消した場合において、たとえ右後者の事情の判断に誤があつても、仮処分の取消は結局正当に帰する。
一 特別事情による仮処分取消申立事件において仮処分の被保全権利が金銭補償可能と認められる場合でもその他の争点に関する判断は必要か。 二 特別事情による仮処分取消申立事件において仮処分の被保全権利が金銭補償可能な事情はそれだけで仮処分取消の特別事情となるか。
民訴法759条,民訴法756条,民訴法747条
判旨
仮処分による保全の必要性に代わる「特別の事情」による取消しにおいて、債権者が被る損害が金銭賠償により償われ得るものである場合は、他の争点を判断せずとも仮処分の取消しが認められる。
問題の所在(論点)
仮処分の取消事由である「特別の事情」の有無を判断するにあたり、債権者の蒙る損害が金銭により償われ得るという点のみをもって、他の争点を判断せずに仮処分を取消すことができるか。
規範
民事保全法上の仮処分取消事由である「特別の事情」(旧民事訴訟法上の規定に相当)とは、債権者が仮処分の維持によって受ける利益と、債務者が受ける不利益を比較衡量し、仮処分を存続させることが妥当でない場合を指す。特に、仮処分の取消しによって債権者に生じ得る損害が、金銭による補償によって十分に償われ得るものである場合には、相当の担保を条件として「特別の事情」を肯定し、他の争点を判断することなく仮処分を取消すことができる。
重要事実
債権者(上告人)は、本件土地上に家屋を建築し三男を居住させる必要性を主張して、建築工事等の禁止を求める仮処分を得ていた。これに対し債務者(被上告人)が仮処分取消しを申し立てたところ、原審は債権者の被る損害は金銭賠償により償われ得るものと判断し、仮処分の取消しを認めた。債権者は、本案訴訟で勝訴しても完成した家屋の取毀しに時間を要することや、三男の居住の必要性が害されること、執行が困難になることを理由として上告した。
あてはめ
本件において、債権者が主張する「三男を居住させる必要」は、本案訴訟で勝訴確定しない限り実現できないものであり、仮処分の存否によって生じる差異は、勝訴後の執行時における建物取毀しの手間の差にすぎない。また、第三者への譲渡の懸念等については、別途譲渡禁止の仮処分等により対処可能であり、本件仮処分の取消しが執行に重大な影響を及ぼすとは認められない。したがって、債権者の損害は本質的に金銭賠償可能な性質のものであり、相当の保証を立てさせることで補償し得る。このような場合には、他の事情を詳細に検討せずとも、金銭賠償可能性のみを根拠として特別の事情を認めることが可能である。
結論
債権者の損害が金銭によって償われ得るものである以上、他の点について判断することなく仮処分を取消した原審の判断は正当である。
実務上の射程
民事保全法25条1項の「特別の事情による取消し」における判断要素を整理する際に用いる。債権者の被保全権利が金銭的利益に還元可能か、あるいは仮処分の解消が回復困難な不利益をもたらすかを検討する際のメルクマールとなる。
事件番号: 昭和28(オ)543 / 裁判年月日: 昭和32年9月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】仮処分命令によって債務者が被る財産上の損害が回復し難いものであり、かつ、保全されるべき権利が金銭的補償によってその終局の目的を達し得る場合には、民事保全法上の「特別の事情」があるとして仮処分の取消しが認められる。 第1 事案の概要:債権者は、本件山林内における石材の搬出禁止を求める仮処分命令を得て…