現住建造物等放火罪に該当する行為により生じた人の死傷結果を,その法定刑の枠内で,量刑上考慮することは許される。
現住建造物等放火罪に該当する行為により生じた人の死傷結果を量刑上考慮することの可否
刑法108条
判旨
現住建造物等放火罪の量刑において、構成要件要素ではない人の死傷結果を考慮することは、同罪が想定する危険の範囲内であり、法定刑の枠内であれば不告不理の原則に反せず許容される。
問題の所在(論点)
現住建造物等放火罪の訴因に記載されていない人の死亡という結果を、量刑上の事情として不利益に考慮することは、不告不理の原則(刑事訴訟法378条3号等)に反し許されないか。
規範
現住建造物等放火罪は、不特定または多数の者の生命・身体等への危険を惹起する罪であり、人の死傷結果はその危険の内容として本来想定される範囲に含まれる。同罪は死刑を含む重い法定刑が定められ、死傷結果をより重く処罰する別個の犯罪類型も存在しない。したがって、同罪の量刑において、当該行為により生じた人の死傷結果を法定刑の枠内で考慮することは、法律上当然に予定されている。
重要事実
被告人は、2名が居住・現存する居宅に延焼し得ることを認識しつつ、隣接する作業場の段ボールに放火し、居宅を全焼させた。この放火により、居宅内にいた2名が一酸化炭素中毒で死亡した。検察官は現住建造物等放火罪で起訴したが、訴因や罪となるべき事実に死亡の結果は記載されていなかった。第一審および控訴審は、この死亡の結果を量刑上不利益に考慮して懲役13年に処したため、被告人が不告不理の原則違反を主張して上告した。
事件番号: 平成23(あ)775 / 裁判年月日: 平成24年2月29日 / 結論: 棄却
現住建造物等放火被告事件につき,ガスコンロの点火スイッチを作動させて点火し,台所に充満したガスに引火,爆発させたとの訴因に対し,訴因変更手続を経ることなく,何らかの方法により上記ガスに引火,爆発させたと認定したことは,引火,爆発の原因が上記スイッチの作動以外の行為であるとした場合の被告人の刑事責任について検察官の予備的…
あてはめ
現住建造物等放火罪は類型的に人の死傷が発生する相当程度の蓋然性がある罪である。本件において、被告人の放火行為により現に居宅内の2名が死亡しており、この結果は同罪が保護しようとする公共の安全に対する危険が現実化したものといえる。このような結果を量刑で考慮することは同罪の予定する範囲内であり、死刑・無期・5年以上の懲役という広範な法定刑の枠内での評価にとどまる限り、余罪処罰や不告不理の原則への抵触は認められない。
結論
現住建造物等放火罪の量刑において、訴因にない死亡の結果を考慮することは適法である。
実務上の射程
放火罪のような公共危険罪において、構成要件化されていない実害(死傷結果)を量刑事情としてどこまで拾えるかを示す。結果的加重犯が存在しない罪名において、事象の重大性を法定刑の範囲内で評価する際の論拠として重要である。答案上は、罪数や公訴事実の特定の問題と絡めて、量刑上の考慮の限界を論じる際に活用する。
事件番号: 平成19(あ)80 / 裁判年月日: 平成22年4月27日 / 結論: 破棄差戻
殺人,現住建造物等放火の公訴事実について,間接事実を総合して被告人が犯人であるとした第1審判決及びその事実認定を是認した原判決は,認定された間接事実中に被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは,少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれているとは認められないなど,間接事実に関する審…
事件番号: 昭和43(す)169 / 裁判年月日: 昭和43年8月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法108条の「焼損」とは、火が媒介物を離れて建造物に燃え移り、独立して燃焼を継続する状態に達したことをいう(独立燃焼説)。 第1 事案の概要:被告人は、現に人が住居に使用している建造物に放火したとして、現住建造物放火罪の容疑で起訴された。上告審において上告棄却の決定がなされたことに対し、被告人は…