現住建造物等放火被告事件につき,ガスコンロの点火スイッチを作動させて点火し,台所に充満したガスに引火,爆発させたとの訴因に対し,訴因変更手続を経ることなく,何らかの方法により上記ガスに引火,爆発させたと認定したことは,引火,爆発の原因が上記スイッチの作動以外の行為であるとした場合の被告人の刑事責任について検察官の予備的な主張がなく,そのような行為に関し求釈明や証拠調べにおける発問等もされていなかったなどの審理経過の下では,被告人に不意打ちを与えるものとして違法である。
現住建造物等放火被告事件につき,訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる放火方法を認定したことが違法とされた事例
刑訴法312条1項,刑訴法312条2項
判旨
判決において訴因と実質的に異なる実行行為を認定するには、原則として訴因変更手続を要するが、被告人に不意打ちを与えず、かつ被告人にとってより不利益でなければ、同手続を経ずに認定することも許容される。本件では、実行行為の態様を無限定に認定した点に不意打ちがあり違法であるが、防御の共通性や証拠関係に照らし、正義に反するほどの重大な違法とはいえない。
問題の所在(論点)
実行行為の態様(引火方法)について、訴因に記載された具体的な方法を「何らかの方法」と一般化して認定する場合、訴因変更手続が必要か。また、同手続を経ない認定が違法となる場合の判断基準が問題となる。
規範
判決において訴因と実質的に異なる事実を認定するには、原則として訴因変更手続(刑訴法312条1項)を要する。ただし、例外として、審理の経過に照らし、①被告人に不意打ちを与えず、かつ、②認定事実が訴因事実と比較して被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、同手続を経ることなく認定することも違法ではない。
重要事実
被告人は、現住建造物である自宅の台所にガスを充満させた上、「ガスコンロの点火スイッチを作動させて点火し」引火・爆発させたとして現住建造物等放火罪で起訴された。一審は「点火スイッチを頭部で押し込み作動させた」と認定したが、原審は証拠上これを否定。一方で、訴因変更手続を経ないまま、引火方法を特定せず「何らかの方法により引火・爆発させた」と認定し、有罪を維持した。これに対し弁護人が、訴因変更手続を欠く認定の違法を主張した。
あてはめ
まず、引火方法は実行行為の内容をなし、防御にとって重要である。検察官は「スイッチ作動」のみを主張し、予備的主張や裁判所による釈明もなかった。それにもかかわらず、具体的可能性を審理せず「何らかの方法」と無限定に認定したことは、攻防の範囲を超え被告人に①不意打ちを与えるものであり、手続上違法である。もっとも、②日時、場所、目的物、焼損結果は同一であり、引火時に被告人が単独で現場にいたことからすれば、防御は相当程度共通し不利益は大きいとまではいえない。また、証拠上も訴因の範囲内での認定が可能であったことから、破棄しなければ「著しく正義に反する」(刑訴法411条1号)とまでは認められない。
結論
原審が訴因変更手続を経ずに実行行為を認定した点には違法があるが、不利益の程度や審理の必要性に照らし、本件上告を棄却する(有罪判決は維持される)。
実務上の射程
訴因変更の要否に関する一般的基準(不意打ち・不利益)を再認しつつ、特に実行行為を「何らかの方法」と抽象化して認定する際のリスクを示した。実務上は、特定の態様が認められない場合でも、他の態様を含む包括的訴因への変更や釈明を促すべきであるが、被告人の防御に実質的影響がない場合には、刑訴法411条の「著しく正義に反する」かどうかの段階で救済されない可能性がある。
事件番号: 昭和43(す)169 / 裁判年月日: 昭和43年8月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法108条の「焼損」とは、火が媒介物を離れて建造物に燃え移り、独立して燃焼を継続する状態に達したことをいう(独立燃焼説)。 第1 事案の概要:被告人は、現に人が住居に使用している建造物に放火したとして、現住建造物放火罪の容疑で起訴された。上告審において上告棄却の決定がなされたことに対し、被告人は…
事件番号: 平成28(あ)190 / 裁判年月日: 平成29年12月19日 / 結論: 棄却
現住建造物等放火罪に該当する行為により生じた人の死傷結果を,その法定刑の枠内で,量刑上考慮することは許される。
事件番号: 平成19(あ)80 / 裁判年月日: 平成22年4月27日 / 結論: 破棄差戻
殺人,現住建造物等放火の公訴事実について,間接事実を総合して被告人が犯人であるとした第1審判決及びその事実認定を是認した原判決は,認定された間接事実中に被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは,少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれているとは認められないなど,間接事実に関する審…