一 逮捕中の被疑者に対する勾留質問調書は、その逮捕が違法な別件逮捕中の自白を資料として発付された逮捕状によるものであつても、他に特段の事情のない限り、証拠能力を否定されるものではない。 二 勾留中の被疑者に対する消防職員の消防法三二条一項による質問調書はその勾留が違法な別件逮捕中の自白を資料として発付された勾留状によるものであつても、他に特段の事情のない限り、証拠能力を否定されるものではない。 三 消防法三二条一項は、消防署長等が当該消防署等に所属する消防職員をして質問調査を行わせることを禁じた趣旨ではない。 四 消防法三五条の二第一項は、消防署長等が、放火又は失火の罪で警察官に逮捕された被疑者に対し、事件が検察官に送致された後に、検察官等の許諾を得て同法三二条一項による質問調査を行うことを禁じた趣旨ではない。
一 違法な別件逮捕中の自白を資料として発付された逮捕状による逮捕中の被疑者に対する勾留質問調書の証拠能力 二 違法な別件逮捕中の自白を資料として発付された勾留状による勾留中の被疑者に対する消防職員の質問調書の証拠能力 三 消防署長等が当該消防署等に所属する消防職員に質問調査を行わせることと消防法三二条一項 四 消防署長等が放火又は失火の罪で逮捕された被疑者に対し検察官送致後に質問調査を行うことと消防法三五条の二第一項
刑訴法61条,刑訴法199条,刑訴法207条,刑訴法319条1項,刑訴法322条1項,消防法31条,消防法32条1項,消防法35条1項,消防法35条の2
判旨
違法な別件逮捕中の自白に基づき発付された令状による勾留中であっても、裁判官による勾留質問調書や消防職員による質問調書は、特段の事情のない限り証拠能力が認められる。
問題の所在(論点)
先行する別件逮捕の違法が、その自白を資料として得られた令状に基づく勾留中の「裁判官による勾留質問調書」および「消防職員による質問調書」の証拠能力に影響を及ぼすか(違法収集証拠の排除法則と派生証拠の証拠能力)。
規範
違法な捜査手続に基づき得られた証拠(第一次的証拠)から派生した第二次的証拠の証拠能力については、先行する捜査の違法の程度、証拠の重要性、および先行の違法手続と第二次的証拠との関連性を総合考慮して判断する。特に、収集主体が捜査機関から独立しており、かつ手続の目的が異なる場合には、特段の事情がない限り、第一次的証拠の違法性は承継されない。
事件番号: 昭和55(あ)578 / 裁判年月日: 昭和55年7月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の取調べ過程において、供述の任意性に影響を及ぼすような違法または不当な事由が認められない場合には、当該自白調書の証拠能力は否定されない。 第1 事案の概要:被告人の供述調書(自白調書)の証拠能力が争点となった事案である。弁護人は、憲法33条、36条、38条1項・2項に違反するような違法・不当…
重要事実
被告人は、住居侵入罪を別件とする違法な逮捕・勾留中に、放火事件(本件)について自白した。捜査機関は、この別件逮捕中の自白を資料として本件の逮捕状・勾留状を取得した。本件での勾留中、裁判官による勾留質問が行われ、その陳述を録取した「勾留質問調書」が作成された。また、消防法32条1項に基づき消防職員が火災原因の調査として被告人に質問し、「質問調書」を作成した。弁護人は、先行する別件逮捕が違法であることから、これら派生的な調書の証拠能力を争った。
あてはめ
勾留質問は、捜査機関から独立した裁判官が、被疑者の権利保護と勾留の是非を審査する目的で行うものである。また、消防職員による質問は、火災予防等の行政目的で行われる独自の手続である。いずれも捜査機関とは別個独立の機関による手続であり、捜査官が手続に支配力を及ぼした事実は認められない。本件では、先行する別件逮捕の違法は任意性に影響するものではなく、裁判官や消防職員が捜査の違法を知って協力したなどの「特段の事情」も認められない。したがって、先行手続の違法と本件各調書との関連性は希薄であり、司法の廉潔性や違法捜査抑止の観点から排除を要するほどではないといえる。
結論
本件勾留質問調書および消防職員の質問調書の証拠能力を肯定した原判断は正当である。
実務上の射程
いわゆる「毒樹の果実」論に関する重要判例。捜査機関自身の取調べによる再度の自白(自白の反復)とは異なり、裁判官や行政機関といった「独立した第三者」が介入した場合には、違法の承継が遮断されやすいことを示しており、派生証拠の証拠能力を検討する際の重要なメルクマールとなる。
事件番号: 昭和26(あ)1952 / 裁判年月日: 昭和28年8月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】司法警察員および検察官に対する被告人の供述について、任意性に疑いがない限り証拠能力が認められ、適法な手続に基づき押収された物件も証拠として許容される。 第1 事案の概要:被告人は司法警察員および検察官に対し、犯罪事実を認める供述を行った。また、捜査機関は本件に関連して物件の押収を行ったが、弁護人は…
事件番号: 昭和53(あ)796 / 裁判年月日: 昭和53年9月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法328条に基づき提出された証拠は、犯罪事実を認定するための実質証拠として用いることはできず、これを証拠として採用していない以上、判決に違法はない。 第1 事案の概要:被告人は放火事件について、捜査段階での自白や証拠の採用方法に関し、憲法違反や判例違反を主張して上告した。特に、刑訴法328…