放火被告事件の控訴審において、被告人の自白する放火の手段方法では独立燃焼を合理的に認められないとの主張を排斥するにあたり、一審における受命裁判官の右放火手段方法の検証調書の記載(実験の結果)は独立燃焼の結果を生じなかつたにかかわらず、この点についての鑑定を含む証拠調の請求を却下し、単に、右実験の結果によれば、被告人自白の放火の手段方法によつても独立燃焼を生ずることは合理的に考えてその可能性は十分認められるとし、証拠に基ずいた説明を加えないで、ただちに抽象的に条件の如何によつては独立燃焼の可能性のあることを肯定することは審理不尽に基く理由不備の違法があり破棄を免かれない
刑訴法第四一一条第一号にあたる事例―審理不尽に基く理由不備
刑訴法411条1号
判旨
放火の手段方法から独立燃焼の可能性を認めるには、実験結果等の客観的事実に基づき、具体的条件が整えば燃焼が可能であることを証拠によって確定すべきであり、抽象的な可能性のみでこれを肯定することは審理不尽・理由不備として許されない。
問題の所在(論点)
検証実験において独立燃焼(既遂)に至らない結果が出ている状況下で、具体的根拠を示さずに気象条件等の抽象的理由のみで独立燃焼の可能性を肯定し、有罪判決を下すことは許されるか(審理不尽・理由不備の有無)。
規範
放火罪(刑法108条等)の既遂時期である「焼燬」の判断において、特定の放火方法による独立燃焼の可能性が争われる場合、裁判所は単に温度や湿度等の一般的条件を抽象的に指摘するだけでは足りない。検証結果等の客観的証拠に基づき、いかなる具体的条件があれば独立燃焼が可能であり、かつ、本件においてその条件が具備され得たかを証拠に基づき確定しなければならない。
重要事実
被告人は、中二階物置にて5本の蝋燭を継ぎ合わせ、乾燥箱の上に立てて点火し、床板に燃え移らせて現住建造物を全焼させたとして起訴された。一審の検証実験では、同条件での実験において蝋燭は燃え尽きたものの、板面がわずかに炭化したのみで独立燃焼には至らなかった。しかし、原審(控訴審)は、燃焼現象は気象条件に左右されるものであるから、一審認定の放火方法でも独立燃焼の可能性は十分認められるとして、弁護人の鑑定請求を却下し、被告人の有罪を維持した。
事件番号: 平成23(あ)775 / 裁判年月日: 平成24年2月29日 / 結論: 棄却
現住建造物等放火被告事件につき,ガスコンロの点火スイッチを作動させて点火し,台所に充満したガスに引火,爆発させたとの訴因に対し,訴因変更手続を経ることなく,何らかの方法により上記ガスに引火,爆発させたと認定したことは,引火,爆発の原因が上記スイッチの作動以外の行為であるとした場合の被告人の刑事責任について検察官の予備的…
あてはめ
一審の検証結果によれば、被告人の自白に基づく放火方法では、媒介物を用いた場合であっても独立燃焼が生じないことが明らかである。原審は、温度、湿度、風力等の影響で結果が変わり得ると説示するが、具体的にいかなる条件が加われば独立燃焼が可能になるのか、また、犯行時にその条件が実際に存在し得たのかについて、何ら証拠に基づいた説明を加えていない。このような認定は独断のそしりを免れず、事実認定の基礎となる審理が尽くされていないといえる。
結論
放火方法と独立燃焼の可能性について具体的証拠に基づかないまま既遂を認めた原判決には、審理不尽・理由不備の違法があり、破棄を免れない。
実務上の射程
本判決は、刑事裁判における事実認定において、科学的・物理的な可能性が争点となる場合に、抽象的な一般論(「条件次第で結果は変わる」等)で結論を導くことを戒めている。答案上は、自白の信憑性や実行の着手、既遂時期が問題となる事案において、客観的証拠(実験結果)と矛盾する認定を批判する際の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和35(あ)2585 / 裁判年月日: 昭和37年5月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】放火罪における「焼損」とは、火が媒介物を離れて目的物に燃え移り、独立して燃焼を継続するに至った状態(独立燃焼説)を指す。また、有罪判決において故意の有無を判示する際、確定的故意か未必的故意かという態様まで明示する必要はない。 第1 事案の概要:被告人らは共謀の上、家屋に放火した。現場の状況は、浴場…
事件番号: 昭和44(あ)1371 / 裁判年月日: 昭和44年10月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】放火罪において、被告人の自白のみに基づいて犯罪事実を認定することは憲法38条3項に抵触するが、火災の状況に関する証拠等があれば、これを補強証拠として犯罪事実を認定することができる。 第1 事案の概要:被告人が放火の罪に問われた事案において、被告人は自白をしていた。弁護人は、本件の犯罪事実の認定が被…