犯行と被告人との結びつきに関する原判決の事実認定に不合理なところがあるときは(判文参照)、刑訴法四一一条三号により原判決を破棄しなければならない。
犯行と被告人との結びつきに関する原判決の事実認定に不合理な点があるとして刑訴法四一一条三号により破棄された事例
刑訴法411条3号
判旨
刑事裁判における犯罪の証明は、反対事実の可能性を許さないほどの確実性を志向した「高度の蓋然性」に基づく確信を要する。間接事実のみによる認定では、個々の事実の評価に合理的な疑いが残る場合、それらを積み重ねても証明力が質的に増大することはない。
問題の所在(論点)
直接証拠がない状況で、情況証拠のみに基づき「犯罪の証明」(刑訴法336条)が認められるための判断基準および推論の合理性。
規範
刑事裁判における「犯罪の証明がある」とは、裁判官が「高度の蓋然性」を認め、犯罪事実につき確信を抱くことをいう。特に情況証拠(間接事実)のみから推論する場合、一つ一つの事実の評価について反対解釈の可能性が否定できないのであれば、それらを単に量的に積み重ねても、証明力が質的に高まる(合理的な疑いを差し挟む余地がなくなる)わけではない。
重要事実
被告人は、自宅周辺の火災が自己の親族の犯行であるとの風評を払拭するため、自ら自宅に放火したとして起訴された。原審は、①戸締りの状況から外部侵入が困難、②放火材料(蝋紙、みね俵等)が店内の物であり内部の者でなければ収集困難、③火災保険加入や着物の移動等の不審な行動、を理由に有罪とした。しかし、被告人は一貫して否認し、証拠物である蝋紙の発見過程にも不透明な点があった。
事件番号: 平成19(あ)80 / 裁判年月日: 平成22年4月27日 / 結論: 破棄差戻
殺人,現住建造物等放火の公訴事実について,間接事実を総合して被告人が犯人であるとした第1審判決及びその事実認定を是認した原判決は,認定された間接事実中に被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは,少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれているとは認められないなど,間接事実に関する審…
あてはめ
まず、戸締りについては心張棒の脱落可能性があり、外部侵入を完全に否定できない。次に、放火材料の収集については、内部の者にしかできない方法を選ぶことは自ら疑いを招く行為であり不自然である。また、火災保険加入や衣類移動は改築準備等としての弁解が可能であり、犯行以前の行動も含まれるため放火の動機と直結しない。さらに、重要証拠である蝋紙は、実況見分から数日後に発見されるなど捜査過程に疑念があり、証明力は限定的である。これら各間接事実は、いずれも反対の解釈が可能であり、総合しても「高度の蓋然性」を認めるには足りない。
結論
被告人を犯人と断定する推断過程には合理性を欠き、犯罪の証明が十分でない。原判決を破棄し、被告人は無罪。
実務上の射程
司法試験において「疑わしきは被告人の利益に」の原則を論じる際、単なる「疑い」ではなく「反対事実の可能性を排除する程度の確信」を求める基準として引用する。情況証拠の総合評価において、個々の事実が多義的である場合の限界を示す射程を持つ。
事件番号: 昭和29(あ)2390 / 裁判年月日: 昭和33年4月25日 / 結論: 破棄差戻
放火被告事件の控訴審において、被告人の自白する放火の手段方法では独立燃焼を合理的に認められないとの主張を排斥するにあたり、一審における受命裁判官の右放火手段方法の検証調書の記載(実験の結果)は独立燃焼の結果を生じなかつたにかかわらず、この点についての鑑定を含む証拠調の請求を却下し、単に、右実験の結果によれば、被告人自白…
事件番号: 昭和55(あ)578 / 裁判年月日: 昭和55年7月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の取調べ過程において、供述の任意性に影響を及ぼすような違法または不当な事由が認められない場合には、当該自白調書の証拠能力は否定されない。 第1 事案の概要:被告人の供述調書(自白調書)の証拠能力が争点となった事案である。弁護人は、憲法33条、36条、38条1項・2項に違反するような違法・不当…
事件番号: 昭和44(あ)1371 / 裁判年月日: 昭和44年10月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】放火罪において、被告人の自白のみに基づいて犯罪事実を認定することは憲法38条3項に抵触するが、火災の状況に関する証拠等があれば、これを補強証拠として犯罪事実を認定することができる。 第1 事案の概要:被告人が放火の罪に問われた事案において、被告人は自白をしていた。弁護人は、本件の犯罪事実の認定が被…