不動産は,商法521条が商人間の留置権の目的物として定める「物」に当たる。
不動産は,商法521条が商人間の留置権の目的物として定める「物」に当たるか
商法521条,民法295条1項
判旨
不動産は、商法521条が商人間の留置権の目的物として定める「物」に当たると解するのが相当である。
問題の所在(論点)
商法521条にいう「物」に不動産が含まれるか。民事留置権と異なり、不動産に商事留置権が成立するかが争点となった。
規範
商法521条の「物」に不動産が含まれるか。同条の文言上、不動産を除外する規定はなく、民法上の「物」と同様に有体物(不動産・動産)を含むと解すべきである。また、商事留置権の趣旨は商人間の信用取引の維持と安全を図る点にあり、不動産取引が広く行われている実情に鑑みれば、不動産を目的物に含めることは上記趣旨に合致する。
重要事実
生コン製造会社であるXは、運送会社Yに対し本件土地を賃貸したが、平成26年に同契約は解除により終了した。Yは、Xとの運送委託契約に基づき発生した弁済期にある運送委託料債権を有している。XがYに対し、所有権に基づき本件土地の明渡しを求めたところ、Yは上記債権を被担保債権として、商法521条に基づく商事留置権を主張して明渡しを拒んだ。
事件番号: 昭和29(オ)474 / 裁判年月日: 昭和31年8月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産質権の留置的効力は、登記がなければ第三者に対抗することができない。また、被担保債権が不動産に関して生じたものでない限り、留置権の成立も認められない。 第1 事案の概要:上告人は、相手方に対して貸金債権を有しており、本件不動産を占有していた。上告人は、不動産質権に基づき不動産を留置する権能、あ…
あてはめ
民法85条、86条は「物」を有体物(不動産及び動産)と定義し、民事留置権(295条1項)も不動産を排除していない。商法521条においても、不動産を除外する文言は存在しない。本件において、債権者Yは商人であり、債務者Xとの商行為によって本件土地の占有を取得し、かつ商行為によって生じた債権を有している。商人間の取引に不動産が含まれる実情から、本件土地に商事留置権の成立を認めることは取引の安全に資する。
結論
不動産は商法521条の「物」に含まれる。したがって、Yの商事留置権が成立し、Xの請求は棄却される(引換給付判決となる)。
実務上の射程
商法521条の「物」の解釈を明確にした判例であり、答案上は一行問題的な論点として「不動産が含まれるか」を問われた際に、本判決の趣旨(信用取引の維持・実情への合致)を引用して結論を導く。商事留置権の成立要件(商人間、双方的商行為、占有取得、被担保債権の発生)を充足した後の目的物の適格性の場面で活用する。
事件番号: 平成6(オ)1279 / 裁判年月日: 平成9年7月3日 / 結論: 棄却
留置物の所有権が譲渡等により第三者に移転した場合において、右につき対抗要件を具備するよりも前に留置権者が留置物の使用又は賃貸についての承諾を受けていたときは、新所有者は、留置権者に対し、右使用等を理由に留置権の消滅請求をすることはできない。