留置物の所有権が譲渡等により第三者に移転した場合において、右につき対抗要件を具備するよりも前に留置権者が留置物の使用又は賃貸についての承諾を受けていたときは、新所有者は、留置権者に対し、右使用等を理由に留置権の消滅請求をすることはできない。
留置権者が留置物の使用等の承諾を受けた後に留置物の所有権を取得した者による留置物の使用等を理由とする留置権の消滅請求の可否
民法177条,民法298条
判旨
留置物の所有権が第三者に移転した場合、新所有者が対抗要件を具備する前に留置権者が前所有者から使用・賃貸の承諾を得ていれば、留置権者はその承諾の効果を新所有者に対抗できる。
問題の所在(論点)
留置物の所有権が移転した場合において、前所有者が与えた「留置物の使用・賃貸に関する承諾」の効果を、留置権者は新所有者に対抗できるか。新所有者による民法298条3項の消滅請求の可否が問題となる。
規範
留置権者が民法298条2項所定の留置物の使用または賃貸についての承諾を債務者(所有者)から受けていた場合、その承諾が新所有者の対抗要件具備(所有権移転登記等)よりも前になされたものであるときは、留置権者は当該承諾の効果を新所有者に対抗することができる。したがって、新所有者は当該使用等を理由として同条3項に基づく留置権消滅請求をすることはできない。
重要事実
建物の建築請負代金債権を有する被上告人は、当該建物について留置権を有していた。被上告人は、建物の当時の所有者であったD商店から、建物の使用等に関する包括的な承諾を得ていた。その後、当該建物は不動産競売に付され、上告人が所有権を取得した。被上告人は競売開始後に建物を第三者に賃貸した。これに対し、新所有者である上告人は、被上告人による建物の使用および賃貸が民法298条2項に違反するとして、同条3項に基づき留置権の消滅を請求し、建物の明け渡しを求めた。
あてはめ
本件では、被上告人が債務者D商店から建物の使用等について包括的な承諾を得た時期は、上告人が所有権を取得する原因となった不動産競売が開始されるよりも前であった。このように、新所有者が権利を取得する(対抗要件を具備する)前に既に正当な承諾が存在していた以上、その承諾の効力は承継後の所有権を拘束する。したがって、被上告人による建物の使用および競売開始後の賃貸は、民法298条2項に違反する無断使用・賃貸にはあたらず、適法な承諾に基づくものといえる。
結論
被上告人は上告人に対し、承諾に基づき建物の使用および賃貸を行う権限を対抗できる。したがって、上告人による留置権消滅請求は認められず、被上告人の留置権の抗弁は理由がある。
実務上の射程
新旧所有者間の権利承継と留置権者の承諾の関係を整理した判例である。答案上は、留置権消滅請求の可否が争われる場面で、承諾の有無とその時期(対抗関係)を検討する際の規範として活用する。包括的な承諾であっても、新所有者の対抗要件具備前であれば対抗可能である点に実務上の意義がある。
事件番号: 昭和48(オ)494 / 裁判年月日: 昭和48年10月5日 / 結論: 棄却
抵当権の設定されている建物の買主は、抵当権の実行により建物が他に競落されたのち不法占有中右建物につき支出した費用に関し留置権を主張することはできない。