賃貸中の不動産に対する競売開始決定の差押の効力発生後賃貸人のした賃借権譲渡の承諾は、特段の事情のない限り、右差押の効力によつて禁止される処分行為にあたらず、譲受人は、賃借権の取得をもつて競落人に対抗することができる。
賃貸中の不動産に対する競売開始決定後賃貸人のした賃借権譲渡の承諾と譲受人の競落人に対する地位
民法612条,民訴法644条,競売法25条
判旨
不動産競売の差押効発生後になされた賃借権譲渡の承諾は、賃貸借の内容改定等の特段の事情がない限り、不動産の交換価値を減少させる処分行為に当たらず、競落人に対抗できる。対抗力の有無は、差押えではなく最先順位の抵当権との優劣により決すべきである。
問題の所在(論点)
不動産競売開始決定による差押えの効力が発生した後に、賃貸人が行った賃借権譲渡の承諾は、差押えの効力によって禁止される処分行為に当たるか。また、譲受人が競落人に対抗し得る占有権原を有するか。
規範
競売開始決定による差押えの効力は、不動産の所有者の処分権能を制限し、その交換価値を消滅または減少させる処分行為を禁止するものである。賃借権譲渡の承諾は、特段の事情がない限り賃借人の交替を生ずるにとどまり、不動産に新たな負担を課すものではないため、差押えに抵触する処分行為には当たらない。また、賃借権が競落人に対抗できるかは、最先順位の抵当権との設定前後の優劣によって決すべきである。
重要事実
本件建物の所有者Dは、Fに対する債務担保のため根抵当権を設定し、その登記が経由されていた。その後、競売開始決定がなされ、差押え(競売申立記入登記)の効力が生じた。上告人は、最先順位の抵当権に対抗し得る適法な賃借人から賃借権を譲り受けたが、賃貸人Dによる譲渡承諾は差押効の発生後であった。競落人である被上告人は、差押え後の承諾は禁止された処分行為に当たり無効であるとして、上告人の占有権原を否定した。
あてはめ
本件において、賃貸人Dが行った譲渡承諾は、賃貸借契約の内容を改定するなどの特段の事情がない限り、単なる賃借人の交替をもたらすにすぎない。これは不動産の交換価値を減少させる「新たな負担」を課すものではなく、差押えの処分禁止効には抵触しない。さらに、元々の賃借権が最先順位の抵当権設定時より前に発生し、対抗力を備えていたのであれば、その譲受人は競落人に対抗し得る地位を承継したといえる。
結論
差押え後の譲渡承諾であっても、特段の事情がない限り処分禁止効に抵触せず有効である。上告人は、元の賃借権が最先順位の抵当権に対抗できるものであれば、競落人に対抗し得る占有権原を有する。
実務上の射程
抵当権実行による競売において、賃借権の対抗力の基準時が「差押時」ではなく「最先順位の抵当権設定時」であることを再確認する射程を持つ。答案上は、民事執行法上の差押えの効力(処分禁止効)の範囲を論じる際の規範として活用できる。
事件番号: 昭和53(オ)662 / 裁判年月日: 昭和54年1月25日 / 結論: 破棄差戻
破産宣告当時破産者所有の不動産につき対抗力ある賃借権の負担が存する場合において、破産宣告後に右不動産が転貸されたとしても、特段の事情のない限り、転借人の転借権取得は破産法五四条一項所定の破産者の法律行為によらない権利の取得に該当しない。