家賃の支払いとその受取証書の交付とは同時履行の関係にあると解すべきであるが、借家人が受取証書の交付を受けないで異議なく家賃の支払いをした場合には、さきに支払つた家賃について受取証書の交付のないことを理由として、その後の家賃の支払いを拒絶することはできない。
家賃領収書交付債務の不履行と家賃支払債務の履行の拒絶の可否。
民法486条,民法533条
判旨
賃料の支払義務と受取証書の交付義務は同時履行の関係にあるが、反対給付としての必要費償還請求権や同時履行の抗弁権は、解除前に具体的に行使または主張されない限り、履行遅滞の責任を免れさせない。
問題の所在(論点)
賃料支払義務と受取証書交付義務の関係、および修繕費償還請求権等の抗弁権を有する賃借人が、これを行使・主張せずに賃料を滞納した場合に履行遅滞の責任を免れるか。
規範
1. 賃料の弁済とその受取証書の交付は同時履行の関係に立つ(民法486条参照)。しかし、過去の賃料につき受取証書の交付がないことを理由に、その後の賃料支払を拒絶することはできない。 2. 賃借人が賃貸人に対し必要費償還請求権等の対抗権能を有していても、解除の意思表示がなされるまでに当該権利に基づき支払を拒絶する意思を明示しない限り、賃料不払による履行遅滞の責を免れない。
重要事実
家屋の賃借人(上告人)が、賃料の延滞を理由に賃貸借契約を解除された。上告人は、(1)過去の賃料について受取証書の交付を受けていないこと、(2)支出した建物の修繕費(必要費)の償還請求権との同時履行、(3)修繕費との相殺、などを主張して賃料不払の正当性を争った。第一審および原審はこれらの主張を退け、解除を有効としたため上告に至った。
あてはめ
1. 受取証書の交付について、本件上告人は過去の分について交付がないことを理由に支払を拒んでいるが、既に異議なく支払った過去の分の受取証書未交付を理由に、将来の支払を拒絶することは信義則上許されない。 2. 修繕費償還請求権との同時履行について、解除の意思表示があるまでに上告人が償還を請求し、またはそれを理由に賃料支払を拒絶した事実は確認できない。抗弁権が存在するだけで自動的に遅滞の責任が消滅するわけではなく、具体的行使が必要である。 3. 相殺についても、賃料値上げ時に修繕費を考慮するよう求めたに留まり、明確な相殺の意思表示があったとは認められない。したがって、賃料不払の遅滞責任は発生している。
結論
賃料支払と受取証書の交付は同時履行の関係にあるが、本件のような状況では遅滞責任を免れない。また、償還請求権等の抗弁権も解除前に適切に行使されなかったため、賃料延滞による解除は有効である。
実務上の射程
弁済と受取証書交付の同時履行性を認めた重要判例である。答案上では、民法486条の解釈として活用できる。また、抗弁権が存在するだけで履行遅滞を阻止できるかという論点において、「行使(または行使の意思の表示)」が必要であることを示す材料として有用である。
事件番号: 昭和38(オ)231 / 裁判年月日: 昭和38年12月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買代金の支払と同時に所有権移転登記手続をなすべき旨の調停が成立した場合、買主が代金を提供したにもかかわらず売主が受領を拒んだときは、その代金提供時に所有権が移転する。 第1 事案の概要:上告人と被上告人の間で「被上告人は上告人に代金9万円を同年12月31日までに完済し、同時に所有権移転登記を了す…