特定物の売買において所有権移転の時期につき特約の認められた事例。
判旨
売買代金の支払と同時に所有権移転登記手続をなすべき旨の調停が成立した場合、買主が代金を提供したにもかかわらず売主が受領を拒んだときは、その代金提供時に所有権が移転する。
問題の所在(論点)
「代金完済と同時に登記を了する」旨の約定がある場合において、買主が代金を提供したものの売主が受領を拒否したときは、どの時点で所有権が移転するか。
規範
特定の動産の売買等において、代金完済時または登記手続完了時に所有権が移転すると解される契約条項(調停条項)がある場合でも、買主が約定に従い代金の提供をなし、かつ売主がその受領を不当に拒絶した場合には、その代金提供の時に所有権は買主に移転する。
重要事実
上告人と被上告人の間で「被上告人は上告人に代金9万円を同年12月31日までに完済し、同時に所有権移転登記を了する」との調停が成立した。被上告人は期限前の12月29日に代金を提供したが、売主たる上告人は「分筆登記をしなければ移転できない」等と主張して代金の受領を拒んだ。上告人は、所有権は依然として自分にあるとして、家賃の支払い等を主張して争った。
あてはめ
本件調停条項の文言によれば、調停成立と同時に所有権が移転したとは解せない。しかし、被上告人は調停条項に基づき期限内に代金9万円を提供しており、売主たる上告人が「分筆が必要」等の口実を設けて受領を拒んでいる。このように買主が債務の履行を提供し、売主が不当にこれを拒絶した状況下では、代金完済という条件の不成就を売主が妨げたものと同視でき、代金提供の時に所有権が移転したと解するのが相当である。
結論
被上告人が代金を提供し、上告人に受領を拒まれた時に本件家屋の所有権は被上告人に移転しているため、上告人の所有権主張は認められない。
実務上の射程
契約において所有権移転時期が代金完済時等とされている場合でも、信義則上、一方的な受領拒否によって所有権移転の効果を妨げることはできないという法理を示す。売買契約に基づく所有権移転時期が争点となる事案で、受領拒否という信義則違反の事実がある場合のあてはめに有効である。
事件番号: 昭和38(オ)679 / 裁判年月日: 昭和39年10月8日 / 結論: 棄却
家賃の支払いとその受取証書の交付とは同時履行の関係にあると解すべきであるが、借家人が受取証書の交付を受けないで異議なく家賃の支払いをした場合には、さきに支払つた家賃について受取証書の交付のないことを理由として、その後の家賃の支払いを拒絶することはできない。