判旨
売買契約における所有権移転時期について、代金完済時とする旨の特約の主張がある場合には、裁判所はその主張の存否を審理すべきであり、これを看過して契約成立時に所有権が移転したと断ずることは許されない。
問題の所在(論点)
民法176条の原則に対し、当事者が所有権移転時期について代金完済時とする特約(所有権留保)の主張を行っている場合、裁判所がこれを無視して契約成立時の移転を認めることは許されるか。
規範
売買契約における目的物の所有権は、原則として契約成立時に移転する。しかし、当事者間に所有権移転時期に関する特約がある場合にはそれに従うべきであり、事実審において当該特約に関する主張および立証がなされている場合には、裁判所はこれについて審理し判断を示す義務を負う。
重要事実
上告人と被上告人は、昭和20年中に本件建物の売買契約を締結した。上告人は第一審において「所有権は代金完済と同時に移転する旨の約定であった」と主張し、また、売買契約後の昭和21年2月付で被上告人から「家賃」を受領したとする証拠も提出されていた。しかし、原審は、所有権移転時期に関する特別の合意について主張・立証がないものとして、契約成立時に所有権が移転したと判断し、上告人の請求を棄却した。
あてはめ
上告人は、第一審口頭弁論およびその後の準備書面において、一貫して代金完済時まで所有権が留保される旨の主張を行っている。また、被上告人が契約後も家賃を支払っていた事実は、未だ所有権が移転していなかったことを推認させる有力な証拠となる。これに対し、原審が「主張も立証もない」として特約の存否を審理せず、直ちに原則論を採用したことは、当事者の重要な主張に対する判断遺脱にあたる。
結論
原審の判断には、当事者の主張に対する判断遺脱の違法がある。したがって、原判決を破棄し、所有権移転時期に関する特約の存否を審理させるため、本件を原審に差し戻す。
実務上の射程
所有権移転時期の特約(所有権留保等)に関する事実主張がある場合、民法176条の原則に依拠して結論を出す前に、当該特約の存否を証拠に基づき判断すべきという審理上の指針を示す。答案上は、所有権移転時期が争点となる場面で、意思主義の例外(特約)を肯定する事情を丁寧に拾う際の論拠として機能する。
事件番号: 昭和34(オ)1013 / 裁判年月日: 昭和35年9月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物として完成していない時点での保存登記及びそれを基礎とした仮登記は、実体上の所有権関係を反映しないため無効である。また、公文書の成立の真正が推定されても、その記載内容の真実性は事実審の自由心証に委ねられる。 第1 事案の概要:昭和28年12月26日、本件家屋について株式会社D建設を所有者とする保…