不動産売買契約において、売主の所有権移転登記義務の履行の提供があつたというためには、単に売主が右登記手続に必要な一切の書類を準備していたことのみでは足らず、原則として、右書類を準備のうえ、法務局に出頭し、直ちに右登記手続をなしうべき状態におくことを要する。
不動産売買における売主の所有権移転登記義務履行の提供の方法
民法493条
判旨
双務契約の債務が同時履行の関係にある場合、当事者の一方は相手方が履行の提供をするまで自己の債務の履行を拒むことができ、相手方が適法な履行の提供をしない限り、履行遅滞を理由に契約を解除することはできない。
問題の所在(論点)
同時履行の関係にある双務契約において、履行期日が祝日等により相手方の義務(登記手続)の履行の提供が事実上不可能な場合、他方の当事者の支払不履行を理由に契約を解除できるか。また、登記義務における適法な「履行の提供」の程度が問題となる。
規範
双務契約において、当事者の一方が相手方の不履行を理由に契約を解除するためには、原則として自己の債務の履行の提供(民法493条)を継続することを要する。不動産の売買における所有権移転登記義務の履行の提供については、単に関係書類を準備するだけでは足りず、原則として、当該書類を準備した上で法務局に出頭し、直ちに登記手続をなし得る状態に置くことを要する。
重要事実
売主(被上告人ら)と買主(補助参加人)との間で、建物の売買及び代金の分割支払い、並びに支払遅滞時の契約失効(解除)の調停が成立した。買主は最終回の代金支払期日(昭和28年1月15日)に支払を行わなかった。当該期日は「成人の日」で祝日であったため、法務局は閉庁しており登記申請は受理されない状況にあったが、売主は必要書類を準備して支払を督促していた。原審は、書類の準備と督促があった以上、期日の経過により契約は当然に解除されたと判断した。
あてはめ
本件売買契約における代金支払と所有権移転登記手続は同時履行の関係にある。売主が適法な履行の提供をしたというには、書類の準備だけでなく、法務局において直ちに登記申請が可能な状態に置く必要がある。しかし、支払期日である1月15日は国民の祝日であり、登記申請の受理が事実上不可能であった。そうであれば、売主による適法な履行の提供があったとはいえず、買主は同時履行の抗弁権(民法533条)に基づき支払を拒絶できるため、履行遅滞の責めを負わない。したがって、特段の事情がない限り、有効な解除は成立しないと解される。
結論
売主による適法な履行の提供がなされていない以上、買主が支払を徒過しても履行遅滞にはならず、売買契約が当然に解除されたとは認められない。
実務上の射程
同時履行の関係にある不動産取引において、登記書類の準備(口頭の提供)だけでは解除のための履行の提供として不十分であることを示す。特に、履行期日が役所の閉庁日と重なり登記申請が不可能な場合には、債権者(売主)側が有効な履行の提供をなし得ないため、相手方を遅滞に陥らせることができないという実務上の留意点を提示している。
事件番号: 昭和38(オ)231 / 裁判年月日: 昭和38年12月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買代金の支払と同時に所有権移転登記手続をなすべき旨の調停が成立した場合、買主が代金を提供したにもかかわらず売主が受領を拒んだときは、その代金提供時に所有権が移転する。 第1 事案の概要:上告人と被上告人の間で「被上告人は上告人に代金9万円を同年12月31日までに完済し、同時に所有権移転登記を了す…