家屋の売買で、残代金の支払と同時に家屋の引渡と所有権移転登記をする約定のあることに争のない場合において、買主が、敷地の使用につき地主の許諾を得ることを請合つた売主の義務に不履行のあることを主張して、残代金債務の遅滞を争つた場合、家屋の引渡と登記との履行の準備並びに提供の有無について釈明することなく、単に右主張の義務に不履行のないことだけを理由として残代金債務の遅滞を認めるのは、審理不尽、理由不備である。
同時履行の関係のある債務の遅滞の判断に審理不尽理由不備ありとされた事例。
判旨
同時履行の関係にある債務において、相手方を履行遅滞に陥らせるための催告をするには、少なくとも催告期間の最終期日までに、自己の債務の履行の準備を完了し、相手方の代金提供があれば直ちに提供し得る状態にあることが必要である。
問題の所在(論点)
同時履行の関係にある債務において、相手方を履行遅滞に陥らせるための催告をする際、売主側はどのような履行の準備をなすべきか。特に、引渡済みの事実や敷地権確保の努力がある一方で、登記義務等の準備が欠けている場合に遅滞の効力が生じるかが問題となる。
規範
双務契約の当事者の一方が自己の債務の履行を催告し、相手方を履行遅滞に陥らせるためには、特段の事情のない限り、自己の債務の履行の準備を完了し、相手方の提供があれば直ちに自己の債務を履行し得る準備を完了しておく必要がある。同時履行の関係にある以上、一方的な催告のみでは足りず、自己の債務の提供(民法493条但書参照)をなし得る状態を維持しなければならない。
重要事実
建物売主Xは、買主Yとの間で代金50万円の売買契約を締結した。Xは建物の一部を引き渡したが、Yは残代金を支払わなかった。XはYに対し、一定期間内に残代金を支払わなければ契約を解除する旨を催告し、その期間経過後に解除を主張した。これに対しYは、建物の敷地利用権の確保や、建物の移転登記義務が履行されていないことを理由に争った。原審は、敷地利用権の確保に向けたXの準備が完了していたことを理由に解除を認めたが、移転登記義務等の準備状況については判示しなかった。
あてはめ
建物の売買において、売主の建物引渡・所有権移転登記義務と買主の代金支払義務は同時履行の関係に立つ。本件では、Xが代金の催告をした際、その猶予期間の最終期日までに、既に引き渡した部分を除く残りの建物の引渡準備および所有権移転登記手続の準備を完了しておくことが肝要である。しかし、原審は敷地賃借権の承継等の点のみを審理し、登記手続等の提供準備の有無を確認せずに催告に付遅滞の効力を認めており、審理不尽であるといえる。自己の義務について提供の準備がなされない限り、相手方は代金不払について遅滞の責めを負わない。
結論
売主が自己の債務(所有権移転登記義務等)について履行の準備を完了していない場合、なされた催告は相手方を履行遅滞に陥らせる効力を有さず、解除は認められない。原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
同時履行の抗弁権(533条)を排して541条解除を行う際の要件として、現実の提供(493条本文)までは不要としても、少なくとも「口頭の提供」に相当する準備を完了すべきことを示した。答案上は、催告期間満了時における自己の債務の「履行準備の完了」および「相手方が履行すれば直ちに提供しうる状態」の有無を検討する際の規範として用いる。
事件番号: 昭和38(オ)679 / 裁判年月日: 昭和39年10月8日 / 結論: 棄却
家賃の支払いとその受取証書の交付とは同時履行の関係にあると解すべきであるが、借家人が受取証書の交付を受けないで異議なく家賃の支払いをした場合には、さきに支払つた家賃について受取証書の交付のないことを理由として、その後の家賃の支払いを拒絶することはできない。