判旨
賃貸借契約の解除権発生を阻止するための債務の履行提供において、催告に定められた猶予期間内に延滞賃料額を超える金員を提供し、それが債権者の代理人の事務所にいた者に渡された場合には、債務者がなすべき提供を完了したものとして履行遅滞の責任を負わない。
問題の所在(論点)
賃貸借契約の解除事由となる履行遅滞の有無を判断するにあたり、催告期間内に債務額を超える金員を債権者代理人の事務所関係者に交付した場合に、有効な履行の提供があったといえるか。
規範
債務者が履行の提供(民法492条)を完了したと認められるためには、債権者の受領を要する状態に置くことを要する。債務額を上回る提供がなされ、かつ債権者の代理人の関係者等、受領権限に準ずる者に交付された場合には、特段の事情がない限り、債務者は債務不履行の責めを免れる。
重要事実
賃貸人(上告人)が賃借人(被上告人)に対し、延滞賃料の支払を催告した。被上告人は、催告で定められた猶予期間の最終日である昭和25年12月9日に、上告人の代理人である弁護士の事務所を訪れた。そこで、延滞賃料の合計額(計算上の誤りはあったが約950円)を大幅に上回る3000円を、同事務所にいた人物に手渡した。上告人側は、この提供の有効性や期間内の履行の有無を争い、賃貸借契約の解除を主張した。
あてはめ
被上告人は、催告の猶予期間内に、実際の延滞賃料額(約950円)を十分にカバーする3000円という金員を提供している。また、その提供場所は債権者代理人である弁護士の事務所であり、交付相手もその事務所にいた人物であることから、客観的にみて債権者が受領し得る状態を作り出したといえる。原審において賃料額の計算に一部違算があったとしても、提供された額が本来の債務額を上回っている以上、提供の有効性に影響はない。したがって、被上告人は債務者としてなすべき提供を完了したものと評価される。
結論
被上告人に賃料延滞の責めはなく、履行遅滞を理由とする解除は認められない。上告棄却。
実務上の射程
弁済の提供の有効性をめぐる事実認定の事例判決である。債務額の算定に些少な誤りがあっても、提供額が真実の債務額を超えていれば提供として有効であること、および代理人の事務所での交付が有効な提供となり得ることを示しており、履行遅滞の抗弁を構成する際の事実評価の指針となる。
事件番号: 昭和30(オ)494 / 裁判年月日: 昭和31年9月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】一時使用のための賃貸借に当たるか否かは、当事者の主観のみならず諸般の事情を総合して判断すべきであり、また、文書提出命令に違背した場合の効果は、当該文書の記載内容に関する主張を真実と認めるにとどまり、直ちに証せんとする事実まで真実と認められるものではない。 第1 事案の概要:被上告人とAとの間で昭和…