判旨
賃料の延滞を理由とする賃貸借契約の解除が認められる場合において、供託が有効であると認められない事実関係の下では、解除は信義則違反や権利濫用には当たらない。
問題の所在(論点)
賃料延滞を理由とする契約解除において、無効な供託がなされている場合に、当該解除が信義則違反または権利濫用となるか。また、賃料不履行による解除に借家法(当時)の正当理由の具備が必要か。
規範
賃借人による賃料供託が有効な債務消滅原因として認められない場合、債務不履行を理由とする賃貸借契約の解除権行使が、信義誠実の原則(民法1条2項)に反し、または権利の濫用(同条3項)として無効となるか否かは、当該解除を正当化し得ない特段の事情があるか否かによって判断される。
重要事実
賃借人(上告人)は、賃料の支払いに代えて供託を行ったが、原審においてその供託は無効であると判断された。賃貸人(被上告人)は、この賃料延滞を理由として賃貸借契約の解除を主張した。これに対し賃借人側は、解除が信義則に反し権利濫用にあたる旨、および借家法上の正当理由の欠如を主張して争った。
あてはめ
本件における供託は無効であり、有効な賃料の提供があったとは認められない。このような事実関係の下では、賃料延滞という債務不履行が存在することは明らかであり、これに基づき賃貸人が解除権を行使することは法的に予定された効果である。したがって、当該解除を信義則違反や権利濫用と評価すべき特段の事由は認められない。また、本件は賃料不履行を理由とする解除であるため、更新拒絶等に適用される借家法1条の2(正当事由)は問題とならない。
結論
本件の賃料延滞に基づく契約解除は正当であり、信義則違反や権利濫用には当たらない。また、賃料不履行による解除に借家法の正当理由は不要である。
実務上の射程
賃料不履行解除における信義則・権利濫用の適用の限界を示す。債務者が供託を行っていても、それが要件を欠き無効であれば、債務不履行の事実は解消されず、解除の効力を否定することは困難であることを示唆する。
事件番号: 昭和32(オ)99 / 裁判年月日: 昭和33年5月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約の解除が権利の濫用に該当するか否かは、賃料受領拒絶や立退要求等の事実のみをもって直ちに判断されるものではなく、諸般の事情を総合的に考慮して判断される。 第1 事案の概要:被上告人(賃貸人)が賃貸借契約を解除した事案において、上告人(賃借人)側は、被上告人による賃料受領の拒絶や、不当な立退…