判旨
一時使用のための賃貸借に当たるか否かは、当事者の主観のみならず諸般の事情を総合して判断すべきであり、また、文書提出命令に違背した場合の効果は、当該文書の記載内容に関する主張を真実と認めるにとどまり、直ちに証せんとする事実まで真実と認められるものではない。
問題の所在(論点)
借家法における一時使用のための賃貸借の認定基準、および文書提出命令に違背した場合の効果の限界が問題となった。
規範
1. 一時使用の賃貸借(借地借家法40条、旧借家法等)の認定は、単なる当事者の主観のみによらず、賃貸借の目的、期間、経緯その他の諸般の事情を総合考慮して判定する。2. 文書提出命令に違背した場合の効果(民訴法224条1項)は、当該文書の記載内容に関する相手方の主張を真実と認めることができるにとどまり、その記載内容から推認されるべき挙証事実そのものが直ちに真実と認められるわけではない。
重要事実
被上告人とAとの間で昭和19年に締結された賃貸借につき、これが「一時使用のための賃貸借」に該当するかが争われた。また、当該賃貸借に関する証書の提出命令に対し被上告人が違背したため、上告人は、その証書に一時使用の旨の記載がないことをもって、通常の賃貸借であるとの事実が真実と認められるべきであると主張した。
あてはめ
1. 本件賃貸借は、明渡猶予の場面で作成された和解調書の文言や、期限到来後の和解という背景事情等、原審が認定した諸般の事情に照らせば、一時使用の賃貸借と判定するのが相当である。2. 仮に文書提出命令への違背があったとしても、それによって擬制されるのは「賃貸借証書に一時使用の趣旨の記載がないこと」という文書の記載内容の真実に限定される。当該記載の欠如から、その賃貸借が一時使用でないとの最終的な事実認定(挙証事実)を導くかどうかは、なお裁判所の自由心証に委ねられる。
結論
本件賃貸借は一時使用のための賃貸借と認められ、また文書提出命令違背を理由に直ちに一時使用でないとの事実認定を強制することはできないとして、上告を棄却した。
実務上の射程
一時使用賃貸借の認定に関する考慮要素の枠組みを示すとともに、民事訴訟法上の証拠不提出による制裁の範囲(記載内容の擬制と挙証事実の認定の区別)を明確にした判例として、実務上重要である。
事件番号: 昭和36(オ)394 / 裁判年月日: 昭和38年2月22日 / 結論: 棄却
判示事情のもとで三年の期間を厳守する約束で成立した借家契約は、一時使用のための建物賃貸借である。