家屋の賃貸借において、賃借人が、一一ヶ月分の賃料を支払わず、また、それ以前においても屡々賃料の支払を遅滞したことがあつても、賃貸借を解除するには、他に特段の事情がないかぎり、民法第五四一条所定の催告を必要とする。
賃料不払を理由とする家屋賃貸借の解除と催告。
民法541条
判旨
賃借人が賃料支払を著しく遅滞させた事実がある場合であっても、民法541条に基づく契約解除には、特段の事情のない限り、なお相当の期間を定めた催告を要する。
問題の所在(論点)
賃借人に著しい賃料の支払遅滞がある場合に、民法541条が定める解除権行使の要件としての「催告」を省略し、無催告で契約を解除することができるか。
規範
民法541条に基づき賃貸借契約を解除するためには、原則として相当の期間を定めた履行の催告を要する。賃借人に著しい賃料支払の遅滞がある場合であっても、直ちに催告が不要となるわけではなく、「他に特段の事情の存しない限り」同条所定の催告を省略することはできない。
重要事実
賃借人(上告人)らは、昭和30年12月分から賃貸人が解除の意思表示をした昭和31年11月14日まで賃料(月額2000円)を支払わなかった。また、昭和29年10月当時から支払遅滞があり、昭和30年2月分からはその遅滞が特に著しかった。賃貸人(被上告人)は、催告の手続きを経ることなく解除の意思表示を行った。
あてはめ
本件において、賃借人には約1年にわたる賃料不払があり、それ以前からも著しい支払遅滞が認められる。しかし、民法541条の趣旨に照らせば、債務不履行の事実が重大であるという一事をもって当然に催告が不要となるものではない。本件の事実関係の下においても、催告を不要とするほどの「特段の事情」があるとは認定されておらず、原則通り催告が必要とされるべきである。したがって、催告を欠いた本件解除の意思表示は、解除の要件を充足しない。
結論
催告を要せずして解除を有効とした原判決には民法541条の解釈の誤りがあり、無催告解除は認められない。
実務上の射程
信頼関係破壊の法理との関係が重要である。本判決は、単なる支払遅滞の事実のみでは無催告解除を認めない厳格な姿勢を示している。答案上、無催告解除の有効性を論じる際には、本判決を前提に、単なる遅滞を超えて「催告をしても履行の見込みがない」等の特段の事情(信頼関係の確定的な破壊)があるか否かを検討する枠組みとして活用する。
事件番号: 昭和41(オ)1265 / 裁判年月日: 昭和42年3月30日 / 結論: 棄却
原審認定の事実関係のもとでの長期にわたる賃料の不払は、それ自体賃貸借契約の継続を困難ならしめる背信行為にあたるから、催告なしに右契約の解除をすることができる。