家屋の賃貸借終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務とは、特別の約定のないかぎり、同時履行の関係に立たない。
賃借家屋明渡債務と敷金返還債務との間の同時履行関係の有無
民法533条,民法619条2項
判旨
賃貸借終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務は同時履行の関係に立たず、明渡債務が先履行である。そのため、賃借人は敷金返還請求権を被担保債権として家屋を留置することはできない。
問題の所在(論点)
賃貸借契約終了後の家屋明渡債務と敷金返還債務との間に同時履行の関係が認められるか、また敷金返還請求権を被担保債権として留置権を行使できるか。
規範
敷金は、明渡しまでの賃料相当損害金等一切の債権を担保するものである。したがって、賃貸人は特別の約定がない限り、明渡し後に残額を返還すれば足り、両債務に同時履行の関係(民法533条)は認められない。また、明渡債務が先履行である以上、敷金返還請求権を被担保債権とする留置権(同法295条)も成立しない。
重要事実
建物の賃借人である上告人は、期間満了により賃貸借が終了したが、建物の競落人(新所有者)である被上告人に対し、前所有者に差し入れた敷金の返還を受けるまで建物を占有する権利があるとして、同時履行の抗弁および留置権を主張して建物の明渡しを拒んだ。
あてはめ
敷金は明渡しまでの損害金等を担保する性質を持つため、明渡しがなされた時点で初めて具体的な返還額が確定する。また、敷金契約は賃貸借に附随するが別個の契約であり、対価的債務関係になく、両債務に著しい価値の差があり得ることから、同時履行を認めることは公平の原則に反する。さらに、明渡債務が先履行の関係に立つ以上、留置権の成立要件である「債権の弁済期」にあるとはいえず、留置権行使も否定される。
結論
家屋明渡債務と敷金返還債務は同時履行の関係に立たず、留置権も成立しないため、上告人の主張は排斥され、明渡請求が認容される。
実務上の射程
敷金の返還時期に関するリーディングケース。答案では、同時履行の抗弁が認められない根拠として「敷金の担保的機能」と「返還額の確定時期」を論じ、セットで留置権否定の論証(期限未到来)につなげる。なお、平成29年改正民法622条の2第1項1号により、判例の結論が明文化されている。
事件番号: 昭和38(オ)231 / 裁判年月日: 昭和38年12月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買代金の支払と同時に所有権移転登記手続をなすべき旨の調停が成立した場合、買主が代金を提供したにもかかわらず売主が受領を拒んだときは、その代金提供時に所有権が移転する。 第1 事案の概要:上告人と被上告人の間で「被上告人は上告人に代金9万円を同年12月31日までに完済し、同時に所有権移転登記を了す…