判旨
建物賃借人が造作買取請求権を行使した場合であっても、当該造作の代金債権を被担保債権として、建物本体について留置権を主張することはできない。
問題の所在(論点)
建物賃借人が、建物に付随させた造作の買取請求権に基づき発生した代金債権を被担保債権として、建物本体について民法295条1項の留置権を行使できるか。換言すれば、当該債権と建物の間に牽連性が認められるか。
規範
民法295条1項の留置権が成立するためには、債権が「その物に関して生じた」ものであること(牽連性)を要する。造作買取請求権(借地借家法33条)に基づき発生した代金債権は、造作について生じた債権であり、建物自体に関して生じた債権とは認められない。
重要事実
上告人は、建物(本件家屋)を賃借していた者であるが、当該建物に設置した天幕(造作)について、賃貸人に対し造作買取請求権を有すると主張した。上告人は、この造作買取請求権に基づく代金債権を被担保債権として、本件家屋の留置を主張した。
あてはめ
上告人が主張する天幕は建物に附属させた造作にすぎず、その買取請求権により生ずる債権は天幕という「物」に関して生じたものである。これに対し、上告人が占有し留置を主張しているのは建物本体である。造作は建物の構成部分ではなく独立した物として扱われる以上、造作の代金債権は建物自体に関して生じたものとはいえず、建物に対する牽連性は否定される。
結論
上告人の留置権の主張は認められず、本件家屋を留置することはできない。上告を棄却する。
実務上の射程
建物の賃貸借終了時における「造作買取請求権」と「建物留置権」の関係を否定した最一小判昭和29年1月14日を引用・追認したものである。司法試験においては、必要費・有益費償還請求権(建物本体の価値増加)に基づく留置権成立の可否との対比で論じられる典型的な論点である。建物自体の価値を高めた費用債権か、別個の造作に関する債権かを区別して、牽連性の有無を判断する際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和25(オ)272 / 裁判年月日: 昭和30年10月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が土地に施した地盛費の償還請求権(民法295条1項)は土地に関して生じた債権であるが、建物明渡請求に対してこれを行使し、建物の明渡を拒絶することはできない。 第1 事案の概要:上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人の承継人)から本件建物の明渡を求められた。これに対し、上告人は賃借土地に施した「…