刑法(平成29年法律第72号による改正前のもの)176条にいう「わいせつな行為」に当たるか否かの判断を行うための個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合はあり得るが,行為者の性的意図は強制わいせつ罪の成立要件ではない。
強制わいせつ罪の成立と行為者の性的意図の要否
刑法(平成29年法律第72号による改正前のもの)176条
判旨
強制わいせつ罪(刑法176条)の成立には、犯人の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図は不要であり、昭和45年判例は変更されるべきである。
問題の所在(論点)
強制わいせつ罪の成立に、犯人の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図を必要とした昭和45年判例を維持すべきか。また、被告人の行為は「わいせつな行為」にあたるか。
規範
強制わいせつ罪の成立要件として、故意(わいせつな行為の認識)以外の性的意図という主観的事情は不要である。いかなる行為が「わいせつな行為」に当たるかは、その時代の社会通念に照らし、客観的に判断されるべき事柄である。具体的には、行為そのものが持つ性的性質の有無・程度を基本としつつ、必要に応じて行為の具体的状況等の諸般の事情を総合考慮し、当該行為に社会通念上の性的な意味があるか否かによって判断する。行為者の目的等の主観的事情は、あくまで個別具体的な判断における考慮要素の一つとなり得るにとどまる。
重要事実
被告人は、被害者が13歳未満の女子であることを知りながら、自己の性欲を刺激興奮させ満足させる意図(性的意図)はなく金銭目的であったものの、被害者に対し、被告人の陰茎を触らせ、口にくわえさせ、被害者の陰部を触るなどの行為に及んだ。
事件番号: 平成12(あ)1769 / 裁判年月日: 平成14年6月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】児童買春・児童ポルノ禁止法2条3項各号に規定される「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という要件は、一般人の通常人が具体的場合に判断可能な基準であり、明確性の原則(憲法31条)等に反しない。 第1 事案の概要:被告人は、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(児童ポルノ禁…
あてはめ
被告人が行った「陰部を触らせる」「口に含ませる」等の行為は、行為そのものが持つ性的性質が極めて明確であり、その他の事情を考慮するまでもなく客観的にわいせつな行為に該当するといえる。性的意図を不要とするのは、①法文上の根拠がないこと、②強要罪との法定刑の均衡、③強姦罪(当時)の解釈との整合性、④被害者の性的被害の実態や社会意識の変化(法改正の経緯)に鑑み、行為者の主観よりも被害の有無や内容に目を向けるべきだからである。したがって、被告人に金銭目的しかなく性的意図が欠けていたとしても、同罪の成立は妨げられない。
結論
被告人の行為に性的意図がなくても、強制わいせつ罪が成立する。上告棄却。
実務上の射程
本判決により性的意図が不要とされたことで、報復目的や嫌がらせ目的の身体接触であっても、客観的に性的意味が強い行為であれば強制わいせつ罪(現・不同意わいせつ罪)として処罰可能となった。答案作成上は、客観的属性が強い行為(性器への接触等)か、状況判断を要する行為(着衣の上からの接触等)かを区別し、後者の場合にのみ目的等の主観を考慮要素として言及すべきである。
事件番号: 昭和43(あ)95 / 裁判年月日: 昭和45年1月29日 / 結論: 破棄差戻
強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し、婦女を脅迫し裸にして、その立つているところを撮影する行為であつても、これが専らその婦女に報復し、または、これを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつ…
事件番号: 平成29(あ)242 / 裁判年月日: 令和2年1月27日 / 結論: 棄却
1 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成26年法律第79号による改正前のもの)2条3項にいう「児童ポルノ」とは,写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって,同項各号のいずれかに掲げる実在する児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいい,実在しない児童の…