強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し、婦女を脅迫し裸にして、その立つているところを撮影する行為であつても、これが専らその婦女に報復し、または、これを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつの罪は成立しない。
専ら報復または侮辱虐待の目的をもつて婦女を脅迫し裸にして撮影する行為と強制わいせつ罪の成否
刑法176条
判旨
刑法176条の強制わいせつ罪が成立するためには、犯人の性欲を刺激興奮させ、または満足させるという主観的な性的意図があることを要する。したがって、専ら報復や侮辱、虐待の目的で行われた行為は、性的意図が認められない限り同罪を構成しない。
問題の所在(論点)
刑法176条の強制わいせつ罪の成立において、行為者の「性欲を刺激興奮または満足させる」という主観的な性的意図(目的)が必要か。
規範
強制わいせつ罪(刑法176条)の成立には、客観的なわいせつ行為に加えて、主観的要件として「犯人の性欲を刺激興奮させ、または満足させるという性的意図」を有することを要する。
重要事実
被告人は、内妻を逃がす手引きをしたと信じた女性に対し、報復・侮辱する目的で、硫酸をかける等の脅迫を約2時間にわたって加えた。その上で女性を畏怖させ、全裸の状態で立たせて写真撮影を行った。一審・二審は、性的意図は不要であるとして強制わいせつ罪の成立を認めたため、被告人が上告した。
事件番号: 平成28(あ)1731 / 裁判年月日: 平成29年11月29日 / 結論: 棄却
刑法(平成29年法律第72号による改正前のもの)176条にいう「わいせつな行為」に当たるか否かの判断を行うための個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合はあり得るが,行為者の性的意図は強制わいせつ罪の成立要件ではない。
あてはめ
被告人の行為は、内妻の逃走に対する「報復」や女性への「侮辱」を目的とした事実が認定されている。内妻の面前で他の女性を全裸にして撮影するという態様は、その行為自体から直ちに性的意図の存在を推認させるものとはいえない。性的意図を不要とした原審の解釈は誤りであり、証拠に基づき性的意図が認められない限り、わいせつ罪は成立せず、強要罪等の成否が問題となるにすぎない。
結論
強制わいせつ罪の成立には主観的な性的意図が必要である。本件では報復目的以外の性的意図が認定されていないため、同罪の成立を認めた原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
本判例は長らく「性的意図」を必要とする通説・判例の根拠とされてきたが、平成29年刑法改正及び令和5年不同意わいせつ罪への改正、並びに最決平成29年11月29日(性的意図不要説への変更)により、現在はその射程が失われている。現在の実務・答案作成においては、性的意図は不要であると論じるのが一般的であり、本判決は歴史的判例として位置づけられる。
事件番号: 昭和27(あ)6297 / 裁判年月日: 昭和29年4月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強制わいせつ罪(刑法176条)と強姦罪(同177条)の区別に関し、行為者に姦淫の目的が認められない場合には、強姦未遂罪ではなく強制わいせつ罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人が被害者に対してわいせつな行為に及んだ事案。弁護人は、本件は強姦罪(刑法177条)の未遂罪に該当すべきであり、強制わいせ…
事件番号: 昭和49(あ)2095 / 裁判年月日: 昭和49年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴趣意書の記載自体に対する不服は原判決に対する適法な上告理由とはならず、また単なる量刑不当の主張も刑事訴訟法405条の上告理由に該当しない。 第1 事案の概要:被告人および弁護人が、控訴審判決に対して上告を提起した。被告人本人は控訴趣意書の記載内容自体を非難する主張および量刑不当の主張を行い、弁…
事件番号: 昭和41(あ)1205 / 裁判年月日: 昭和42年10月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条にいう「わいせつ」な文書とは、徒らに性欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。文書の内容が性行為の叙述に終始し、表現の具体性や露骨性の程度にかかわらず、右要件を充足する場合にはわいせつ文書に該当する。 第1 事案の概要:被告人が…