判旨
刑法175条にいう「わいせつ」な文書とは、徒らに性欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。文書の内容が性行為の叙述に終始し、表現の具体性や露骨性の程度にかかわらず、右要件を充足する場合にはわいせつ文書に該当する。
問題の所在(論点)
刑法175条の「わいせつ」性の判断において、性行為の具体的な描写や露骨さが欠けている場合であっても、同条のわいせつ文書に該当するか。また、そのような規制が憲法19条や21条に違反しないか。
規範
「わいせつ」な文書とは、徒らに性欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものを指す。これは、文書のテーマ自体や性行為の描写それ自体を直ちに処罰対象とするものではなく、当該文書が読者に与える影響や社会的評価に基づき判断される。
重要事実
被告人が配布等した本件各文書は、いんわいな性行為や性交渉の叙述に終始する内容であった。弁護人は、本件判決が表現の具体性や露骨性にかかわらず内心の思想を処罰の対象としたものであるとして、憲法19条及び21条違反、並びに従来の判例違反を主張して上告した。
あてはめ
本件各文書は、いんわいな性行為等の叙述に終始しており、その内容は読者をしていたずらに性欲を興奮・刺激させるものであるといえる。また、かかる叙述は正常な人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものと評価される。わいせつ性の認定には必ずしも露骨・具体的な描写が必要とされるわけではなく、文書の全体的・実質的な内容が上記規範に抵触する以上、わいせつ文書にあたると解される。
結論
本件各文書はわいせつ文書に該当し、これを処罰することは内心の思想そのものを対象とするものではないため、憲法19条、21条に違反しない。したがって、上告を棄却する。
事件番号: 昭和54(あ)690 / 裁判年月日: 昭和55年11月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条(わいせつ物頒布罪等)の構成要件は不明確ではなく憲法31条に違反しない。また、同条は憲法21条が保障する表現の自由を不当に侵害するものではなく合憲である。 第1 事案の概要:被告人が、わいせつな文書や図画を頒布・販売したとして、刑法175条違反(わいせつ物頒布、同販売等)に問われた事案…
実務上の射程
わいせつ概念の三要素(チャタレー事件判決以来の準則)を確認しつつ、表現の具体性・露骨性が欠けていても、性交渉の叙述に終始する等の態様によって「わいせつ性」が肯定されうることを示した。答案上は、表現の自由(21条1項)との関係で「わいせつ」の定義を明示し、個別具体的事実から三要素へのあてはめを行う際の根拠として活用する。
事件番号: 昭和54(あ)2018 / 裁判年月日: 昭和55年11月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条のわいせつ物頒布等の罪は憲法21条(表現の自由)や憲法31条(適正手続・明確性の原則)に違反せず、その故意として問題となる記載の存在自体の認識が必要でないとまではいえない。 第1 事案の概要:被告人らが、わいせつな文書を販売目的で所持していたとして、刑法175条違反に問われた事案。被告…
事件番号: 昭和57(あ)165 / 裁判年月日: 昭和59年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条の「わいせつ」概念は罪刑法定主義に反せず、同条による処罰は表現の自由等を保障する憲法21条、19条、31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が、刑法175条に基づきわいせつ文書の出版等の罪に問われた事案。弁護人は、同条が読書の自由(憲法21条)や思想の自由(同19条)を侵害し、適…
事件番号: 昭和48(あ)2593 / 裁判年月日: 昭和49年4月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法21条1項が保障する表現の自由は絶対無制限ではなく、性生活の秩序や健全な風俗の維持という公共の福祉による制限を受けるため、刑法175条のわいせつ物頒布罪等の規定は合憲である。 第1 事案の概要:被告人が、3人1組の性戯や性交の場面等を、性器の形状や動き、行為者の言動などについて具体的、詳細かつ…
事件番号: 昭和46(あ)1666 / 裁判年月日: 昭和46年12月23日 / 結論: 棄却
わいせつ文書等の頒布等を禁止した刑法一七五条は、憲法一三条に違反しない。