刑法一七五条が憲法二一条、三一条に違反しないとされた事例―いわゆる「模索舎」事件―
憲法21条,憲法31条,刑法175条
判旨
刑法175条のわいせつ物頒布等の罪は憲法21条(表現の自由)や憲法31条(適正手続・明確性の原則)に違反せず、その故意として問題となる記載の存在自体の認識が必要でないとまではいえない。
問題の所在(論点)
1. 刑法175条(わいせつ物頒布等罪)は憲法21条(表現の自由)および31条(明確性の原則・正当な理由)に違反するか。 2. わいせつ文書販売目的所持罪における故意の内容として、問題となる記載の存在の認識は必要か。
規範
刑法175条は表現の自由(憲法21条)を不当に制限するものではなく、その構成要件も不明確ではない(憲法31条)。また、わいせつ文書販売目的所持罪の故意については、当該文書における問題となる記載内容の存在を認識していることが必要である(ただし、それが「わいせつ」に該当するという法的評価の認識までは不要である)。
重要事実
被告人らが、わいせつな文書を販売目的で所持していたとして、刑法175条違反に問われた事案。被告人側は、同条が憲法21条の表現の自由や憲法31条の適正手続・明確性の原則に違反すると主張したほか、故意の要件として問題となる記載の存在の認識を欠いていたと主張して上告した。
あてはめ
1. 刑法175条については、過去の大法廷判決(チャタレイ事件等)の趣旨に照らし、憲法21条、31条に違反しない。構成要件が不明確であるとの主張も、判例上否定されている。 2. 故意の要件について、原判決は「問題となる記載の存在の認識が不要」とまでは判断していない。したがって、主観的要件として当該文書の内容(記載の存在)を認識していれば、あてはめとして故意は認められると解される。
事件番号: 昭和54(あ)690 / 裁判年月日: 昭和55年11月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条(わいせつ物頒布罪等)の構成要件は不明確ではなく憲法31条に違反しない。また、同条は憲法21条が保障する表現の自由を不当に侵害するものではなく合憲である。 第1 事案の概要:被告人が、わいせつな文書や図画を頒布・販売したとして、刑法175条違反(わいせつ物頒布、同販売等)に問われた事案…
結論
刑法175条は合憲であり、被告人らに販売目的所持の故意が認められるとした原判決に憲法違反や判例違反の違法はない。上告棄却。
実務上の射程
憲法論としては「わいせつ表現」が憲法の保護の枠外にある、あるいは公共の福祉による制限を受けるとする伝統的な合憲判決の一つとして位置づけられる。刑法の故意論としては、法規の認識(わいせつ性の認識)は不要だが、事実の認識(記載内容の存在の認識)は必要であるという区別を確認する際に参照される。
事件番号: 昭和58(あ)1546 / 裁判年月日: 昭和59年9月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条のわいせつ物頒布等の規定は、憲法13条、21条、31条に違反せず、また、他人の権利侵害や未成年者への配慮を欠く場合に限定して解釈しなくとも合憲である。 第1 事案の概要:被告人が刑法175条の罪に問われた事案において、被告人および弁護人は、同条が個人の幸福追求権(憲法13条)や表現の自…
事件番号: 昭和41(あ)1205 / 裁判年月日: 昭和42年10月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条にいう「わいせつ」な文書とは、徒らに性欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。文書の内容が性行為の叙述に終始し、表現の具体性や露骨性の程度にかかわらず、右要件を充足する場合にはわいせつ文書に該当する。 第1 事案の概要:被告人が…
事件番号: 昭和57(あ)311 / 裁判年月日: 昭和58年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条の「わいせつ」概念は憲法31条が要求する明確性の原則に反せず、同条による表現の自由等の制限も、公共の福祉に基づく合理的な制限として憲法13条、21条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が、わいせつな文書または図画を販売等したとして、刑法175条違反(わいせつ物頒布罪)に問われた事案…
事件番号: 昭和57(あ)281 / 裁判年月日: 昭和58年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条のわいせつ物頒布罪による処罰は、表現の自由を保障する憲法21条に違反せず、また「わいせつ」の概念は憲法21条、31条が要求する明確性の原則にも反しない。 第1 事案の概要:被告人は、いわゆる「ビニール本」を販売した行為について、刑法175条(わいせつ物頒布罪)の罪に問われた。これに対し…