わいせつ文書等の頒布等を禁止した刑法一七五条は、憲法一三条に違反しない。
わいせつ文書等の頒布等の禁止と憲法一三条
憲法13条,刑法175条
判旨
刑法175条の「わいせつ」とは、徒らに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものを指すと定義し、同条の構成要件は明確であるため憲法31条に違反しない。
問題の所在(論点)
刑法175条の「わいせつ」の定義が構成要件として不明確(憲法31条違反)ではないか。また、同条によるわいせつ文書等の頒布禁止が憲法13条に違反しないか。
規範
刑法175条にいう「わいせつ」とは、(1)徒らに性欲を興奮または刺激させ、かつ(2)普通人の正常な性的羞恥心を害し、(3)善良な性的道義観念に反するものをいう。
重要事実
被告人がわいせつ文書等の頒布等により刑法175条違反に問われた事案。弁護人は、同条の「わいせつ」の概念が不明確であり憲法31条の罪刑法定主義に反すること、および個人の尊厳を定める憲法13条に違反することを理由に上告した。判決文中に具体的な頒布物等の内容は記載されていない(判決文からは不明)。
あてはめ
事件番号: 昭和57(あ)165 / 裁判年月日: 昭和59年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条の「わいせつ」概念は罪刑法定主義に反せず、同条による処罰は表現の自由等を保障する憲法21条、19条、31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が、刑法175条に基づきわいせつ文書の出版等の罪に問われた事案。弁護人は、同条が読書の自由(憲法21条)や思想の自由(同19条)を侵害し、適…
最高裁が過去の判例(チャタレイ事件等)で確立した三要素からなる「わいせつ」の定義によれば、同条の構成要件は、適用範囲が不明確であるとはいえない。また、公共の福祉の観点からわいせつ文書等の頒布等を禁止することは、個人の尊重(憲法13条)を不当に侵害するものではないと解される。
結論
刑法175条は憲法31条および13条に違反しないため、本件上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は、刑法175条の「わいせつ」概念を定式化した三要素(徒らな性欲刺激、羞恥心の侵害、道義観念への反逆)を確認したものである。答案上は、罪刑法定主義(明確性の原則)との関係で、判例が確立した定義によって限定解釈が可能であることを示す際に引用する。
事件番号: 昭和58(あ)1546 / 裁判年月日: 昭和59年9月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条のわいせつ物頒布等の規定は、憲法13条、21条、31条に違反せず、また、他人の権利侵害や未成年者への配慮を欠く場合に限定して解釈しなくとも合憲である。 第1 事案の概要:被告人が刑法175条の罪に問われた事案において、被告人および弁護人は、同条が個人の幸福追求権(憲法13条)や表現の自…
事件番号: 昭和41(あ)559 / 裁判年月日: 昭和41年11月1日 / 結論: 棄却
刑法第一七五条は、憲法第二一条に違反しない(昭和三二年三月一三日大法廷判決、刑集一一巻三号九九七頁参照)。
事件番号: 昭和57(あ)311 / 裁判年月日: 昭和58年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条の「わいせつ」概念は憲法31条が要求する明確性の原則に反せず、同条による表現の自由等の制限も、公共の福祉に基づく合理的な制限として憲法13条、21条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が、わいせつな文書または図画を販売等したとして、刑法175条違反(わいせつ物頒布罪)に問われた事案…
事件番号: 昭和38(あ)3187 / 裁判年月日: 昭和39年5月29日 / 結論: 棄却
所論は、本件盃の底部に貼付されてある写真はいわゆるヌードの範囲に属し、徒らに性慾を興奮または刺戟するものではないから、原審がこれを猥褻図画に当るとした判断は刑法第一七五条の解釈を誤まつたものであり、かつ、憲法第二一条第一項の保障する表現の自由に違反する疑があると主張するが、原審が右盃を刑法第一七五条の猥褻図画に当るとし…