所論は、本件盃の底部に貼付されてある写真はいわゆるヌードの範囲に属し、徒らに性慾を興奮または刺戟するものではないから、原審がこれを猥褻図画に当るとした判断は刑法第一七五条の解釈を誤まつたものであり、かつ、憲法第二一条第一項の保障する表現の自由に違反する疑があると主張するが、原審が右盃を刑法第一七五条の猥褻図画に当るとした判断は相当であり、また、原審がこれを処罰の対象としたことは、憲法第二一条の保障する表現の自由といえども絶対無制限のものではなく、公共の福祉に反することは許されないものであり、芸術的作品すらも猥褻性を有する場合があるとする当裁判所の判例(昭和二八年(あ)第一七一三号同三二年三月一三日大法廷判決、刑集一一巻三号九九七頁)の趣旨に照らしても、所論憲法の条項に違反するものでない。
ヌード盃を刑法第一七五条にいう猥褻図画に該当すると認定しこれを処罰の対象とすることと憲法第二一条。
刑法175条,憲法21条
判旨
刑法175条の「わいせつ」とは、徒らに性欲を興奮・刺激させ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、かつ善良な性的道義観念に反するものをいう。表現の自由の保障も絶対無制限ではなく、芸術的作品であっても、右の三要件を充足する場合にはわいせつ図画として処罰の対象となる。
問題の所在(論点)
本件盃に貼付された写真が刑法175条の「わいせつ」な図画に該当するか。また、芸術的・装飾的な意図がある図画についてわいせつ罪を適用することが、憲法21条1項の表現の自由に違反しないか。
規範
刑法175条にいう「わいせつ」な図画とは、①徒らに性欲を興奮または刺激せしめ、②普通人の正常な性的羞恥心を害し、③善良な性的道義観念に反するものであることを要する。これら三要件は累積的に満たされる必要がある。また、憲法21条1項の保障する表現の自由も絶対無制限ではなく、公共の福祉(性的秩序の維持)による制約を受けるため、芸術的作品であってもわいせつ性を有し得る。
重要事実
事件番号: 昭和29(あ)3592 / 裁判年月日: 昭和31年9月25日 / 結論: 棄却
刑法一七五条にいわゆる猥褻とは徒らに性慾を興奮又は刺戟せしめ、且つ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいうこと当裁判所の判例(昭和二六年(れ)第一七二号同年五月一〇日第一小法廷判決、集五巻六号一〇二六頁参照)とするところであり、この判例を変更すべき理由を見ない。
被告人は、底面にヌード写真が貼付された盃(さかずき)を販売等の目的で所持していた。弁護人は、当該写真は単なるヌードの範囲に属し、徒らに性欲を興奮させるものではないから、原審がこれをわいせつ図画にあたると判断したのは刑法175条の解釈を誤り、憲法21条1項の表現の自由に違反する疑いがあると主張して上告した。
あてはめ
判決文によれば、原審はわいせつ性の判断において「性欲の興奮・刺激」「性的羞恥心の侵害」「性的道義観念への抵触」という三要件を具備する必要があるとの一貫した説示を行っている。本件の盃については、その態様からこれらの要件を充足すると判断されており、最高裁もこの判断を相当とした。表現の自由との関係については、先行するチャタレイ事件大法廷判決の趣旨を引用し、芸術性がある場合であっても公共の福祉の観点からわいせつ性が否定されるわけではないとの論理を適用した。
結論
本件盃の写真はわいせつ図画にあたる。また、これを処罰することは表現の自由を保障した憲法21条に違反しない。
実務上の射程
わいせつ概念の「三要件(興奮・刺激、羞恥心、道義観念)」を定着させた判例である。答案上は、性的表現の自由と175条の合憲性を論じる際、公共の福祉による制約の根拠として言及する。芸術性や思想性が含まれる対象であっても、三要件に照らしてわいせつ性が肯定され得るという判断枠組み(チャタレイ事件以来の準則)を確認する際に有用である。
事件番号: 昭和46(あ)1666 / 裁判年月日: 昭和46年12月23日 / 結論: 棄却
わいせつ文書等の頒布等を禁止した刑法一七五条は、憲法一三条に違反しない。
事件番号: 昭和41(あ)559 / 裁判年月日: 昭和41年11月1日 / 結論: 棄却
刑法第一七五条は、憲法第二一条に違反しない(昭和三二年三月一三日大法廷判決、刑集一一巻三号九九七頁参照)。
事件番号: 昭和57(あ)311 / 裁判年月日: 昭和58年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条の「わいせつ」概念は憲法31条が要求する明確性の原則に反せず、同条による表現の自由等の制限も、公共の福祉に基づく合理的な制限として憲法13条、21条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が、わいせつな文書または図画を販売等したとして、刑法175条違反(わいせつ物頒布罪)に問われた事案…
事件番号: 昭和58(あ)1546 / 裁判年月日: 昭和59年9月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条のわいせつ物頒布等の規定は、憲法13条、21条、31条に違反せず、また、他人の権利侵害や未成年者への配慮を欠く場合に限定して解釈しなくとも合憲である。 第1 事案の概要:被告人が刑法175条の罪に問われた事案において、被告人および弁護人は、同条が個人の幸福追求権(憲法13条)や表現の自…