刑法一七五条にいわゆる猥褻とは徒らに性慾を興奮又は刺戟せしめ、且つ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいうこと当裁判所の判例(昭和二六年(れ)第一七二号同年五月一〇日第一小法廷判決、集五巻六号一〇二六頁参照)とするところであり、この判例を変更すべき理由を見ない。
猥褻の意義
刑法175条
判旨
刑法175条の「わいせつ」とは、徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。また、同条の「販売」の目的については、特定の1名のみならず、不特定多数人に対して販売する目的があれば足りる。
問題の所在(論点)
1. 刑法175条における「わいせつ」の定義。2. わいせつ物頒布罪等の成立において、特定の1人だけでなく不特定多数に対する販売目的が必要か。
規範
刑法175条にいう「わいせつ」とは、①徒らに性欲を興奮又は刺激させ、②普通人の正常な性的羞恥心を害し、③善良な性的道義観念に反するものをいう。
重要事実
被告人は、わいせつな内容を含むフィルム1巻を所持し、これを販売しようとした。弁護人は、本件が特定の1名のみに対して売却しようとした場合であり、不特定多数への販売目的がない旨を主張して上告した。原審は、証拠に基づき、被告人が特定の1名のみならず、他の不特定人に対しても販売する目的を有していたと認定していた。
事件番号: 昭和34(あ)923 / 裁判年月日: 昭和34年10月29日 / 結論: 棄却
刑法第一七五条にいう「猥褻ノ物」とは、性欲を刺戟しもしくは興奮させまたはこれを満足せしむべき物品であつて、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。
あてはめ
本件フィルムの内容は、徒らに性欲を刺激し、普通人の性的羞恥心を害して善良な性的道義観念に反するものとして「わいせつ」に該当する。また、販売の目的については、原判決の認定によれば、特定の1名であるAのみならず、他の不特定人に対して販売する目的が認められる。したがって、被告人の行為は、わいせつ物を不特定多数に提供しようとする主観的態様を備えているといえる。
結論
本件フィルムは刑法175条のわいせつ物に該当し、不特定人に対する販売目的も認められるため、わいせつ物販売目的所持罪(または頒布罪等)の成立を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
本判決は、有名なチャタレイ事件(最判昭32.3.13)に先んじて「わいせつ」の定義(いわゆる三要素)を確認したものである。答案上は、性的表現の自由(憲法21条1項)との関係で「わいせつ物」の定義を定立する際の不可欠な規範となる。また、販売目的の認定において、対象が特定の1名に限定されない広がりを持つことを要求する実務上の指針を示している。
事件番号: 昭和38(あ)3187 / 裁判年月日: 昭和39年5月29日 / 結論: 棄却
所論は、本件盃の底部に貼付されてある写真はいわゆるヌードの範囲に属し、徒らに性慾を興奮または刺戟するものではないから、原審がこれを猥褻図画に当るとした判断は刑法第一七五条の解釈を誤まつたものであり、かつ、憲法第二一条第一項の保障する表現の自由に違反する疑があると主張するが、原審が右盃を刑法第一七五条の猥褻図画に当るとし…
事件番号: 昭和41(あ)559 / 裁判年月日: 昭和41年11月1日 / 結論: 棄却
刑法第一七五条は、憲法第二一条に違反しない(昭和三二年三月一三日大法廷判決、刑集一一巻三号九九七頁参照)。
事件番号: 昭和46(あ)1666 / 裁判年月日: 昭和46年12月23日 / 結論: 棄却
わいせつ文書等の頒布等を禁止した刑法一七五条は、憲法一三条に違反しない。
事件番号: 昭和57(あ)859 / 裁判年月日: 昭和58年10月27日 / 結論: 棄却
刑法一七五条は、憲法一三条、二一条、三一条に違反しない。