刑法一七五条は、憲法一三条、二一条、三一条に違反しない。
刑法一七五条と憲法一三条、二一条、三一条
刑法175条,憲法13条,憲法21条,憲法31条
判旨
刑法175条のわいせつ物頒布罪は、社会環境としての性風俗を清潔に保つという公共の福祉に基づく制限として、憲法21条および31条に違反しない。特に、思想・科学・芸術等の価値を欠き、もっぱら性欲を刺激するだけの表現(ハード・コア・ポルノ)については、表現の自由の保障の本旨から外れ、内在的制約により処罰が正当化される。
問題の所在(論点)
1. 刑法175条(わいせつ物頒布罪)が、憲法21条1項の表現の自由を不当に制限し、違憲ではないか。2. 「わいせつ」の概念が不明確であり、憲法31条(罪刑法定主義)に違反しないか。
規範
1. 憲法21条1項の保障する表現の自由も、絶対無制限ではなく、憲法12条・13条の規定に基づき、公共の福祉による制限を受ける。2. 刑法175条の「わいせつ」とは、「徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」を指し、その定義は具体的適用の基準の集積によって明確化されているため、憲法31条(罪刑法定主義)に違反しない。3. 表現としての価値(思想・科学・芸術性等)を欠き、もっぱら好色的興味に訴えるものは、表現の自由の本旨に照らした内在的制約を受け、制限が許容される。
重要事実
被告人が、女性の陰部や陰毛が透けて見える下着を着用し、ことさらに股間を広げている姿態などを撮影したカラー写真を販売した事案。これらの写真は、被写体の陰部付近を特に強調したアングルで撮影されており、いわゆる「ハード・コア・ポルノ」に該当するものであった。
事件番号: 昭和57(あ)311 / 裁判年月日: 昭和58年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条の「わいせつ」概念は憲法31条が要求する明確性の原則に反せず、同条による表現の自由等の制限も、公共の福祉に基づく合理的な制限として憲法13条、21条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が、わいせつな文書または図画を販売等したとして、刑法175条違反(わいせつ物頒布罪)に問われた事案…
あてはめ
本件写真は、下着の透視や股間の強調等により、女性の性器付近を示して見る者に性的刺激を与え、性的好奇心を満足させるという目的に終始している。そこには格別の芸術性や思想性は窺われず、もっぱら見る者の好色的興味に訴える「ハード・コア・ポルノ」である。このような、それ自体において思想・科学・芸術等の主張ないし価値を持つことが明らかな「表現」といえない物、あるいはその価値を欠くものについては、公共の福祉ないし表現の自由の内在的制約として、制限を受けることはやむを得ない。また、わいせつ概念は規範的要素を含むが、判例の蓄積により具体的な意味内容が形成されており、処罰範囲は予測可能である。
結論
刑法175条は憲法21条および31条に違反せず、本件写真の販売行為を同条により処罰することは合憲である。
実務上の射程
わいせつ表現の合憲性を論じる際のリーディングケース。特に「表現の価値(芸術性等)」と「性的刺激の程度」を比較衡量し、実質的な価値を欠くポルノグラフィについては公共の福祉による制約を広く認めるロジックとして活用できる。答案上は、チャタレー事件や悪徳の栄え事件判決を再確認する文脈で引用する。
事件番号: 昭和58(あ)1546 / 裁判年月日: 昭和59年9月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条のわいせつ物頒布等の規定は、憲法13条、21条、31条に違反せず、また、他人の権利侵害や未成年者への配慮を欠く場合に限定して解釈しなくとも合憲である。 第1 事案の概要:被告人が刑法175条の罪に問われた事案において、被告人および弁護人は、同条が個人の幸福追求権(憲法13条)や表現の自…
事件番号: 昭和57(あ)165 / 裁判年月日: 昭和59年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条の「わいせつ」概念は罪刑法定主義に反せず、同条による処罰は表現の自由等を保障する憲法21条、19条、31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が、刑法175条に基づきわいせつ文書の出版等の罪に問われた事案。弁護人は、同条が読書の自由(憲法21条)や思想の自由(同19条)を侵害し、適…