わいせつ文書の販売を処罰することと憲法二一条 わいせつ文書の販売に刑法一七五条の規定を適用すべき実質的かつ合理的な理由があるとの原判断を肯認した事例
刑法175条,憲法21条,憲法31条
判旨
憲法21条1項が保障する表現の自由は絶対無制限ではなく、性生活の秩序や健全な風俗の維持という公共の福祉による制限を受けるため、刑法175条のわいせつ物頒布罪等の規定は合憲である。
問題の所在(論点)
刑法175条によるわいせつ文書の頒布・販売等の処罰が、憲法21条の保障する表現の自由を侵害し、違憲とならないか。また、具体的描写を含む文書に同条を適用することの合理性が問題となる。
規範
憲法21条の保障する表現の自由も絶対無制限なものではなく、公共の福祉による制限の下に立つ。したがって、性生活に関する秩序および健全な風俗を維持するため、わいせつな文書の頒布・販売等を処罰する刑法175条の規定は、同条に違反しない。
重要事実
被告人が、3人1組の性戯や性交の場面等を、性器の形状や動き、行為者の言動などについて具体的、詳細かつ極めて露骨に描写することに終始した、いわゆる「春本」に該当する文書を頒布・販売等したとして、刑法175条違反に問われた事案。
あてはめ
本件文書は、性交場面等を具体的かつ詳細に、かつ極めて露骨に描写することに終始している。これは単なる文学的表現の域を超えた「春本」そのものであり、性生活の秩序を乱すものである。このような描写を含む文書の頒布を制限することは、健全な風俗を維持するための実質的かつ合理的な理由があるといえる。したがって、公共の福祉による正当な制限の範囲内にあると評価される。
事件番号: 昭和58(あ)1546 / 裁判年月日: 昭和59年9月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条のわいせつ物頒布等の規定は、憲法13条、21条、31条に違反せず、また、他人の権利侵害や未成年者への配慮を欠く場合に限定して解釈しなくとも合憲である。 第1 事案の概要:被告人が刑法175条の罪に問われた事案において、被告人および弁護人は、同条が個人の幸福追求権(憲法13条)や表現の自…
結論
刑法175条は憲法21条に違反せず、本件文書に同条を適用して処罰することは合憲である。
実務上の射程
わいせつ表現に対する制約の合憲性を肯定した判例であり、答案上は、表現の自由の限界論において「公共の福祉」による制約を肯定する際の根拠として用いる。ただし、現在の実務では、本判決が引用するチャタレイ事件や悪徳の栄え事件の枠組みを前提としつつ、より具体的な「わいせつ性」の定義(徒に性欲を興奮させ、羞恥心を害し、善良な性的道徳観念に反するもの)に即してあてはめを行う必要がある。
事件番号: 昭和57(あ)281 / 裁判年月日: 昭和58年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条のわいせつ物頒布罪による処罰は、表現の自由を保障する憲法21条に違反せず、また「わいせつ」の概念は憲法21条、31条が要求する明確性の原則にも反しない。 第1 事案の概要:被告人は、いわゆる「ビニール本」を販売した行為について、刑法175条(わいせつ物頒布罪)の罪に問われた。これに対し…
事件番号: 昭和43(あ)2409 / 裁判年月日: 昭和44年12月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法21条の表現の自由および23条の学問の自由は絶対無制限ではなく、公共の福祉による制限を受ける。わいせつな文書を特定の会員に対し性科学の研究目的で配布する行為であっても、刑法175条のわいせつ物頒布罪の成立を妨げない。 第1 事案の概要:被告人は、いわゆるわいせつな文書や図画を、特定の会員のみを…
事件番号: 昭和41(あ)1205 / 裁判年月日: 昭和42年10月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条にいう「わいせつ」な文書とは、徒らに性欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。文書の内容が性行為の叙述に終始し、表現の具体性や露骨性の程度にかかわらず、右要件を充足する場合にはわいせつ文書に該当する。 第1 事案の概要:被告人が…
事件番号: 昭和54(あ)690 / 裁判年月日: 昭和55年11月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条(わいせつ物頒布罪等)の構成要件は不明確ではなく憲法31条に違反しない。また、同条は憲法21条が保障する表現の自由を不当に侵害するものではなく合憲である。 第1 事案の概要:被告人が、わいせつな文書や図画を頒布・販売したとして、刑法175条違反(わいせつ物頒布、同販売等)に問われた事案…