判旨
憲法21条の表現の自由および23条の学問の自由は絶対無制限ではなく、公共の福祉による制限を受ける。わいせつな文書を特定の会員に対し性科学の研究目的で配布する行為であっても、刑法175条のわいせつ物頒布罪の成立を妨げない。
問題の所在(論点)
特定の会員に対し、性科学の研究目的という限定された目的で行われたわいせつ文書の配布行為について、憲法21条(表現の自由)および23条(学問の自由)に基づき処罰が否定されるか。また、かかる制限が公共の福祉による正当な制限として許容されるか。
規範
憲法21条が保障する表現の自由および23条が保障する学問の自由といえども、絶対無制限ではなく、公共の福祉による制限を受ける。刑法175条による処罰は、社会の善良な性道徳を維持するという公共の福祉に基づく正当な制限であり、特定の目的や限定された対象への配布であっても、当該文書がわいせつ性を有する限り、同条の制限に服する。
重要事実
被告人は、いわゆるわいせつな文書や図画を、特定の会員のみを対象として配布した。被告人は、当該配布が性科学の研究という特別な目的で行われたものであり、不特定多数人を対象とする販売とは性質が異なると主張して、刑法175条の「販売」や「頒布」に該当しないこと、および憲法21条(表現の自由)や23条(学問の自由)に抵触することを理由に無罪を訴えた。
あてはめ
被告人の行為は、性科学の研究目的かつ特定会員への配布という限定的な態様であった。しかし、判例によれば表現の自由や学問の自由も公共の福祉により制限され得る。本件文書がわいせつ物である以上、学問的研究目的という主観的意図や、会員制という配布態様の限定性があったとしても、社会全体の性道徳の維持という観点から、刑法175条による規制を免れるものではない。したがって、被告人の行為は同条の禁止する行為に該当し、憲法違反も認められない。
結論
被告人の行為は刑法175条に違反し、同条による処罰は憲法21条および23条に違反しない。上告棄却。
事件番号: 昭和48(あ)2593 / 裁判年月日: 昭和49年4月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法21条1項が保障する表現の自由は絶対無制限ではなく、性生活の秩序や健全な風俗の維持という公共の福祉による制限を受けるため、刑法175条のわいせつ物頒布罪等の規定は合憲である。 第1 事案の概要:被告人が、3人1組の性戯や性交の場面等を、性器の形状や動き、行為者の言動などについて具体的、詳細かつ…
実務上の射程
学問の自由や表現の自由を根拠とする違憲の主張に対し、いわゆる「公共の福祉による制約」を肯定した初期の判例である。答案上では、わいせつ物頒布罪等の成立において、主観的な学問目的や配布対象の限定性が直ちに違法性を阻却するものではないことを示す際の論拠として用いることができる。
事件番号: 昭和58(あ)1546 / 裁判年月日: 昭和59年9月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条のわいせつ物頒布等の規定は、憲法13条、21条、31条に違反せず、また、他人の権利侵害や未成年者への配慮を欠く場合に限定して解釈しなくとも合憲である。 第1 事案の概要:被告人が刑法175条の罪に問われた事案において、被告人および弁護人は、同条が個人の幸福追求権(憲法13条)や表現の自…
事件番号: 昭和57(あ)311 / 裁判年月日: 昭和58年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条の「わいせつ」概念は憲法31条が要求する明確性の原則に反せず、同条による表現の自由等の制限も、公共の福祉に基づく合理的な制限として憲法13条、21条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が、わいせつな文書または図画を販売等したとして、刑法175条違反(わいせつ物頒布罪)に問われた事案…
事件番号: 昭和41(あ)1205 / 裁判年月日: 昭和42年10月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条にいう「わいせつ」な文書とは、徒らに性欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。文書の内容が性行為の叙述に終始し、表現の具体性や露骨性の程度にかかわらず、右要件を充足する場合にはわいせつ文書に該当する。 第1 事案の概要:被告人が…
事件番号: 昭和41(あ)559 / 裁判年月日: 昭和41年11月1日 / 結論: 棄却
刑法第一七五条は、憲法第二一条に違反しない(昭和三二年三月一三日大法廷判決、刑集一一巻三号九九七頁参照)。