県が教員採用試験における職員らの不正のため不合格となった受験者らに損害賠償金を支払ったことにより取得した求償権の一部を知事において行使しないことが財産の管理を違法に怠るものであるとして提起された住民訴訟において,上記不正は県の教育委員会の職員らが現職の教員を含む者から依頼を受けて受験者の得点を操作するなどして組織的に行われ,一部は賄賂の授受を伴うなど悪質なものであり,その結果も本来合格していたはずの多数の受験者が不合格となるなど極めて重大であったことに鑑み,これに関与した職員らに対する退職手当の返納命令や不支給は正当なものであったという事情の下では,教員の選考に試験の総合点以外の要素を加味すべきであるとの考え方に対して上記教育委員会が確固とした方針を示してこなかったことや,上記返納命令に基づく返納の実現が必ずしも確実ではなかったこと等の抽象的な事情のみから直ちに上記求償権のうち上記返納に係る額に相当する部分を行使しないことが違法な怠る事実に当たるとはいえないとした原審の判断には,違法がある。
県が職員らの不正につき損害賠償金を支払ったことにより取得した求償権の一部を知事において行使しないことが違法な怠る事実に当たるとはいえないとした原審の判断に違法があるとされた事例
国家賠償法1条2項,民法1条2項,民法722条2項,地方自治法242条の2第1項3号,地方自治法242条の2第1項4号
判旨
教員採用試験における組織的不正に関与した公務員に対する求償権行使に関し、退職手当の返納や不支給の事実、あるいは組織の体質といった抽象的な事情のみをもって、当然に求償額を控除したり過失相殺や信義則による制限を認めることはできない。
問題の所在(論点)
地方自治法242条の2第1項4号等に基づき、地方公共団体が職員に対し求償権を行使しないことが「財産の管理を怠る事実」として違法とされるか。特に、退職金の返納事実や組織的体質を理由に、求償権の行使を当然に制限(控除)できるかが問われた。
規範
国家賠償法2条1項(又は1項)に基づく損害を賠償した地方公共団体が、当該職員に対して行う求償権(同法1条2項)の行使については、全額を請求するのが原則である。例外的に求償権の行使を制限するためには、単に退職金の不支給や返納があったという事実や、組織内の土壌といった抽象的な事情だけでは足りず、不正の経緯、当該職員の職責・関与の態様、組織の責任の有無・程度、発覚後の状況等を総合的に考慮し、信義則上相当と認められる限度で個別具体的に判断されなければならない。
事件番号: 平成31(行ヒ)40 / 裁判年月日: 令和2年7月14日 / 結論: その他
国又は公共団体の公権力の行使に当たる複数の公務員が,その職務を行うについて,共同して故意によって違法に他人に加えた損害につき,国又は公共団体がこれを賠償した場合においては,当該公務員らは,国又は公共団体に対し,連帯して国家賠償法1条2項による求償債務を負う。 (補足意見がある。)
重要事実
大分県教育委員会の幹部職員らが、教員採用試験において収賄を伴う組織的な得点操作等の不正を行い、県は不合格者に対し計約9000万円の損害賠償を支払った。県は、主導した職員Aに対し退職金約3200万円の返納を命じ、Aはこれに応じた。県は、求償すべき総額から、この「退職金返納額」および「他の職員等からの寄附金」を全額控除した残額(約947万円)のみを求償対象と決定し、その余の求償権行使を怠った。住民が、未行使部分の求償権行使を求めて住民訴訟を提起した。
あてはめ
本件不正は、幹部職員が組織的に関与し賄賂を伴うなど極めて悪質かつ重大である。職員Aへの退職手当返納命令は正当な処分であり、返納されたことをもって、県が求償すべき金額から当然に当該額を控除することはできない。また、原審が挙げた「試験の点数以外の要素を加味する組織風土」や「返納の実現可能性」といった事情は抽象的なものに過ぎない。これらの事情のみから、過失相殺や信義則を適用して求償権の行使を制限し、返納額相当分を行使しないことを正当化することは法的に許されない。
結論
本件返納額を求償額から当然に控除し、その余の求償を行わないことを適法とした原審の判断には法令違反がある。制限の可否については、不正の経緯や職責、関与態様等を更に審理すべきであり、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
公務員の不祥事に伴う求償権行使において、退職金の不支給・返納という「経済的ペナルティ」が既にあることを理由に求償を免除・軽減する実務慣行に制約を課した。答案では、国賠法1条2項の求償権制限の是非を論ずる際、信義則の適用の可否について「関与の態様」「職責」「組織の帰責性」といった具体的要素を総合考慮すべきとする枠組みとして活用できる。
事件番号: 平成20(受)1043 / 裁判年月日: 平成21年10月23日 / 結論: 棄却
市町村が設置する中学校の教諭がその職務を行うについて故意又は過失によって違法に生徒に損害を与えた場合において,当該教諭の給料その他の給与を負担する都道府県が国家賠償法1条1項,3条1項に従い上記生徒に対して損害を賠償したときは,当該都道府県は,同条2項に基づき,賠償した損害の全額を当該中学校を設置する市町村に対して求償…