特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁(訂正により特許法104条の3第1項の規定に基づく無効の抗弁に係る無効理由が解消されることを理由とする再抗弁)を主張しなかったにもかかわらず,その後に同法104条の4第3号所定の特許請求の範囲の訂正をすべき旨の審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことは,訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情がない限り,特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものとして,同法104条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許されない。
特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に特許法104条の4第3号所定の特許請求の範囲の訂正をすべき旨の審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことの許否
特許法104条の3,特許法104条の4,特許法126条,特許法134条の2,民訴法338条1項8号
判旨
特許権侵害訴訟において、特許権者が事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかった場合、その後に訂正審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことは、訂正の再抗弁を主張しなかったことについて「特段の事情」がない限り、特許法104条の3及び104条の4の趣旨に照らし許されない。
問題の所在(論点)
事実審で訂正の再抗弁を主張しなかった特許権者が、判決後の訂正審決確定を理由として、上告審で原判決の妥当性を争うことが許されるか。特に、法律上の制限により事実審において訂正審判等の請求ができなかったことが「特段の事情」にあたるか。
規範
特許法104条の3が無効の抗弁を認めたのは、紛争を侵害訴訟内で迅速に解決するためである。また、104条の4が確定判決後の再審を制限したのは、紛争の一回的解決を図る趣旨である。これら各規定の趣旨に照らせば、事実審までに訂正の再抗弁を主張しなかった特許権者が、その後に確定した訂正審決等を理由に事実審の判断を争うことは、審理のやり直しと同等であり、紛争解決を不当に遅延させる。したがって、再抗弁を主張しなかったことにつき「やむを得ないといえるだけの特段の事情」がない限り、これを主張して争うことは許されない。なお、再抗弁の主張にあたり、必ずしも現に訂正審判等の請求をしている必要はない。
事件番号: 平成18(受)1772 / 裁判年月日: 平成20年4月24日 / 結論: 棄却
XのYに対する特許権の侵害を理由とする損害賠償等の請求につき,Yの特許法104条の3第1項に基づく無効主張を採用して請求を棄却すべきものとする控訴審判決がされた後に,上記特許権に係る特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を認める審決が確定した場合において,Xが同審決が確定したため民訴法338条1項8号の再審事由が存すると…
重要事実
特許権者である上告人が、被上告人に対し特許権(シートカッター)に基づき差止め等を請求した。第1審は請求を一部認容したが、控訴審(原審)で被上告人は新たな無効の抗弁(特許法29条1項・2項違反)を主張。上告人は原審口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかった。原審は無効の抗弁を認め上告人の請求を棄却。上告人は上告後に訂正審判を請求し、訂正審決が確定したため、民訴法338条1項8号(行政処分の変更)に準ずる再審事由・法令違反があると主張した。なお、原審時に別件の無効審判の取消訴訟が継続中であったため、法律上(特許法126条2項等)、上告人は事実上の訂正審判請求ができない状態にあった。
あてはめ
上告人は、原審口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張していない。上告人は、別件の審決取消訴訟が係属中であったために法律上(特許法126条2項等)訂正審判の請求等ができなかったことを理由に挙げる。しかし、侵害訴訟における訂正の再抗弁は、現に訂正審判等の請求がなされていることを要件とするものではない。したがって、法的な訂正請求が制限されていたとしても、訴訟手続内で「訂正の再抗弁」を主張することは可能であったといえる。よって、本件において訂正の再抗弁を主張しなかったことに「やむを得ないといえるだけの特段の事情」は認められない。
結論
上告審において訂正審決の確定を理由に原判決の判断を争うことは許されず、上告棄却。
実務上の射程
本判決は、特許権侵害訴訟における訂正の再抗弁が「現実の訂正審判等の請求」と切り離して主張可能であることを明確にし、事実審での主張を怠った場合のサンクションとして、上訴審での主張制限を課したものである。
事件番号: 平成28(受)1242 / 裁判年月日: 平成29年3月24日 / 結論: 棄却
1 出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の他人が製造等をする製品又は用いる方法と異なる部分につき,同製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても,それだけでは,同製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外され…
事件番号: 平成14(行ヒ)200 / 裁判年月日: 平成15年10月31日 / 結論: 破棄差戻
特許を取り消すべき旨の決定の取消請求を棄却した原判決に対して上告又は上告受理の申立てがされ,上告審係属中に当該特許について特許請求の範囲を減縮する旨の訂正審決が確定した場合には,原判決には,民訴法325条2項に規定する法令の違反がある。
事件番号: 昭和30(オ)608 / 裁判年月日: 昭和31年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由が原判決の違法に直接関係のない事柄の主張や、原判決の認定に副わない事実を前提とする主張にすぎない場合、原判決に影響を及ぼす明らかな法令の違背があるとは認められない。 第1 事案の概要:上告人は原判決の違法を主張して上告したが、その主張内容は多岐にわたるものの、大部分は原判決の違法とは直接関…
事件番号: 平成19(行ヒ)318 / 裁判年月日: 平成20年7月10日 / 結論: その他
特許異議申立事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正は,訂正の対象となっている請求項ごとに個別にその許否を判断すべきであり,一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に適合しないことのみを理由として,他の請求項に係る訂正事項を含む…