1 自衛隊が設置し,海上自衛隊及びアメリカ合衆国海軍が使用する飛行場の周辺に居住する住民が,当該飛行場における航空機の運航による騒音被害を理由として,自衛隊の使用する航空機の毎日午後8時から午前8時までの間の運航等の差止めを求める訴えについて,①上記住民は,当該飛行場周辺の「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」4条所定の第一種区域内に居住し,当該飛行場に離着陸する航空機の発する騒音により,睡眠妨害,聴取妨害及び精神的作業の妨害や不快感等を始めとする精神的苦痛を反復継続的に受けており,その程度は軽視し難いこと,②このような被害の発生に自衛隊の使用する航空機の運航が一定程度寄与していること,③上記騒音は,当該飛行場において内外の情勢等に応じて配備され運航される航空機の離着陸が行われる度に発生するものであり,上記被害もそれに応じてその都度発生し,これを反復継続的に受けることにより蓄積していくおそれのあるものであることなど判示の事情の下においては,当該飛行場における自衛隊の使用する航空機の運航の内容,性質を勘案しても,行政事件訴訟法37条の4第1項所定の「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められる。 2 自衛隊が設置し,海上自衛隊及びアメリカ合衆国海軍が使用する飛行場における,自衛隊の使用する航空機の毎日午後8時から午前8時までの間の運航等に係る防衛大臣の権限の行使は,①上記運航等が我が国の平和と安全,国民の生命,身体,財産等の保護の観点から極めて重要な役割を果たしており,高度の公共性,公益性があること,②当該飛行場周辺の「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」4条所定の第一種区域内に居住する住民は,当該飛行場に離着陸する航空機の発する騒音により,睡眠妨害,聴取妨害及び精神的作業の妨害や不快感等を始めとする精神的苦痛を反復継続的に受けており,このような被害は軽視することができないものの,これを軽減するため,自衛隊の使用する航空機の運航については一定の自主規制が行われるとともに,住宅防音工事等に対する助成,移転補償,買入れ等に係る措置等の周辺対策事業が実施されるなど相応の対策措置が講じられていることなど判示の事情の下においては,行政事件訴訟法37条の4第5項所定の行政庁がその処分をすることがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められるときに当たるとはいえない。 (1,2につき補足意見がある。)
1 自衛隊が設置し,海上自衛隊及びアメリカ合衆国海軍が使用する飛行場の周辺住民が,当該飛行場における航空機の運航による騒音被害を理由として自衛隊の使用する航空機の運航の差止めを求める訴えについて,行政事件訴訟法37条の4第1項所定の「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められた事例 2 自衛隊が設置し,海上自衛隊及びアメリカ合衆国海軍が使用する飛行場における自衛隊の使用する航空機の運航に係る防衛大臣の権限の行使が,行政事件訴訟法37条の4第5項所定の行政庁がその処分をすることがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められるときに当たるとはいえないとされた事例
(1,2につき)行政事件訴訟法3条7項,自衛隊法8条,防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律4条 (1につき)行政事件訴訟法37条の4第1項,行政事件訴訟法37条の4第2項 (2につき)行政事件訴訟法37条の4第5項,自衛隊法(平成27年法律第76号による改正前のもの)3条,第6章 自衛隊の行動,自衛隊法(平成27年法律第67号による改正前のもの)107条1項,自衛隊法107条4項,自衛隊法107条5項
判旨
自衛隊機の運航の差止請求について、行政事件訴訟法37条の4第1項の「重大な損害を生ずるおそれ」の訴訟要件は満たすが、防衛大臣の運航統括権限の行使に裁量権の逸脱・濫用は認められない。
問題の所在(論点)
自衛隊機の運航差止請求につき、(1)行政事件訴訟法37条の4第1項の訴訟要件(重大な損害を生ずるおそれ)を満たすか、(2)防衛大臣の運航権限の行使に裁量権の範囲の逸脱または濫用が認められるか(同条5項)。
規範
1. 差止めの訴えの訴訟要件(行訴法37条の4第1項)である「重大な損害を生ずるおそれ」とは、処分後に取消訴訟を提起して執行停止を得る等の方法では容易に救済できず、処分前に差止めを命ずる方法でなければ救済が困難な場合をいう。 2. 差止めの本案要件(同条5項)について、自衛隊機の運航権限は、防衛・公共秩序維持という任務遂行のため高度の政策的・専門技術的な判断を要し、防衛大臣の広範な裁量に委ねられる。そのため、裁量権の逸脱・濫用があるか否かは、運航の公共性、住民の騒音被害の性質・程度、被害軽減措置の有無・内容等を総合考慮し、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くか否かで判断すべきである。
重要事実
1. 厚木基地の周辺住民が、自衛隊機の騒音による睡眠妨害等の被害を理由に、夜間等の運航差止めを求めて義務付け訴訟を提起した。 2. 自衛隊機は哨戒、災害派遣、教育訓練等を行い、その運航には高度の公共性・公益性がある。 3. 周辺住民は、W値75以上の第一種区域に居住し、深刻な睡眠妨害や精神的苦痛を受けている。 4. 国側は、厚木飛行場規則による夜間運航の自主規制(午後10時〜午前6時の離着陸は月平均4.4〜6.9回程度)を行い、また、総額1兆円超を投じて住宅防音工事の助成等の周辺対策を実施してきた。
あてはめ
1. 騒音被害は、離着陸のたびに発生し反復・蓄積する性質を有するため、事後的な取消訴訟による救済になじまない。したがって、「重大な損害を生ずるおそれ」が認められ、訴訟要件を充足する。 2. 自衛隊機の運航は、国防や国民の生命保護等に不可欠であり、夜間や訓練も含め高度の公共性・公益性がある。 3. 住民の被害は軽視し難いが、国側は夜間運航の自主規制により運用を限定的(月数回程度)に留めており、かつ巨額の費用を投じて住宅防音工事等の相応の被害軽減措置を講じている。 4. 以上を総合考慮すると、将来にわたり運航が行われることが、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものとは認められない。
結論
自衛隊機の運航について、防衛大臣に裁量権の逸脱・濫用があるとはいえないため、差止請求は理由がなく棄却される。
実務上の射程
行政事件訴訟法における義務付け・差止めの訴えの「重大な損害」の判断基準を示すとともに、防衛行政という高度の裁量領域における司法審査の枠組み(社会通念審査)を明確にした。
事件番号: 平成11(オ)887 / 裁判年月日: 平成14年4月12日 / 結論: 棄却
外国国家の主権的行為については,国際慣習法上,民事裁判権が免除される。
事件番号: 平成18(受)882 / 裁判年月日: 平成19年5月29日 / 結論: 破棄自判
飛行場において離着陸する航空機の発する騒音等により周辺住民らが精神的又は身体的被害等を被っていることを理由とする損害賠償請求権のうち事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分は,判決言渡日までの分についても,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しない。 (補足意見及び反対意見がある。)
事件番号: 昭和57(行ツ)46 / 裁判年月日: 平成元年2月17日 / 結論: 棄却
定期航空運送事業免許に係る路線を航行する航空機の騒音によつて社会通念上著しい障害を受けることとなる飛行場周辺住民は、当該免許の取消しを訴求する原告適格を有する。