一 民事上の請求として自衛隊の使用する航空機の離着陸等の差止め及び右航空機の騒音の規制を求める訴えは不適法である。 二 国が日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に基づきアメリカ合衆国に対し同国軍隊の使用する施設及び区域として飛行場を提供している場合において、国に対し右軍隊の使用する航空機の離着陸等の差止めを請求することはできない。 三 国及びアメリカ合衆国軍隊が管理する飛行場の周辺住民が右飛行場に離着陸する航空機に起因する騒音等により被害を受けたとして国に対し慰謝料の支払を求めたのに対し、単に右飛行場の使用及び供用が高度の公共性を有するということから右被害が受忍限度の範囲内にあるとした原審の判断には、不法行為における侵害行為の違法性に関する法理の解釈適用を誤つた違法がある。 (一につき補足意見がある。)
一 民事上の請求として自衛隊の使用する航空機の離着陸等の差止め及び右航空機の騒音の規制を求める訴えの適否 二 国に対しアメリカ合衆国軍隊の使用する航空機の離着陸等の差止めを請求することの可否 三 国及びアメリカ合衆国軍隊が管理する飛行場の周辺住民が右飛行場に離着陸する航空機に起因する騒音等により被害を受けたとして国に対し慰謝料を請求した場合につき右被害が受忍限度の範囲内にあるとした判断に違法があるとされた事例
民訴法第2編第1章訴,日本国とアメリカ合衆国との相互協力及び安全保障条約6条,日本国とアメリカ合衆国との相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定2条,民法198条299条,民法709条,国家賠償法1条1項,国家賠償法2条1項,日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う民事特別法1条,日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う民事特別法2条
判旨
自衛隊機の騒音差止請求は公権力の行使の取消・変更を求めるものとして民事訴訟では不適法であり、米軍機については国に支配権がなく差止請求は失当である。また、航空機騒音による損害賠償の成否は、公共性のみならず侵害態様や被害防止策等の諸要素を総合比較して受忍限度を判断すべきである。
問題の所在(論点)
1. 自衛隊機の飛行差止請求は、民事訴訟の対象となるか。2. 国に対し、米軍機の飛行差止めを請求することができるか。3. 航空機騒音による損害賠償請求において、受忍限度を判断する際の考慮要素および公共性の位置づけはどうあるべきか。
規範
事件番号: 平成27(行ヒ)512 / 裁判年月日: 平成28年12月8日 / 結論: その他
1 自衛隊が設置し,海上自衛隊及びアメリカ合衆国海軍が使用する飛行場の周辺に居住する住民が,当該飛行場における航空機の運航による騒音被害を理由として,自衛隊の使用する航空機の毎日午後8時から午前8時までの間の運航等の差止めを求める訴えについて,①上記住民は,当該飛行場周辺の「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」…
1. 自衛隊機の運航は、防衛庁長官(当時)が国の防衛等の任務遂行のために統括し、航行の安全や障害防止の規制を行う権限の下で行われるものであり、その権限行使は周辺住民との関係で公権力の行使に当たる。2. 民事上の差止請求が支配の及ばない第三者の行為を対象とする場合は主張自体失当となる。3. 営造物の利用に伴う騒音等の違法性は、侵害の態様・程度、被侵害利益の性質、行為の公共性・公益性、被害防止措置の有無・内容、回避可能性等を総合的に考察し、受忍限度を超えるか否かによって判断する。この際、公共性が高いからといって直ちに受忍限度が高まるわけではなく、周辺住民の利益との彼此相補関係の有無等も考慮すべきである。
重要事実
厚木飛行場の周辺住民が、自衛隊機および米軍機の離着陸等による騒音被害を理由に、人格権等に基づき夜間・早朝の飛行差止めと騒音規制、および過去・将来の損害賠償を求めて国を提訴した。原審は、自衛隊機の差止めを統治行為等として却下し、米軍機については国に規制権限がないとして却下した。損害賠償については、飛行場の高度な公共性を重視し、生活妨害等の被害は受忍限度内であるとして過去の賠償請求を棄却した。
あてはめ
1. 自衛隊機の運航規制は防衛庁長官の合理的な裁量的判断に委ねられた公権力の行使であり、民事上の差止請求はその権限行使の取消・変更を求めるものに包含されるため、不適法である。2. 米軍機の運航は日米安保条約等に基づき米軍の権限に属し、国はこれを制限する法的権限を有しない。したがって、国に対し支配の及ばない第三者(米軍)の行為の差止めを求める請求は失当である。3. 損害賠償について、原審は情緒的被害や生活妨害を認定しながら、専ら飛行場の公共性のみを理由に受忍限度内としたが、これは不当である。住宅防音工事等の被害対策が不十分であることや、騒音被害の増大が周辺住民の利益増大に直結する「彼此相補の関係」が認められないこと等の諸事情を総合検討すべきである。
結論
自衛隊機の差止請求は不適法として却下、米軍機の差止請求は主張自体失当として棄却(結論維持)。過去の損害賠償請求については、受忍限度の判断に違法があるため原判決を破棄し、差し戻す。将来の損害賠償請求は却下を維持する。
実務上の射程
自衛隊機の差止めについては行政訴訟(抗告訴訟)によるべきことを示唆しており、行政法上の「不作為の差止訴訟」等の活用の指針となる。損害賠償の受忍限度論については、単なる公共性の強調ではなく、被害の実態や対策の不十分さを具体的にあてはめる際の基準として機能する。
事件番号: 平成18(受)882 / 裁判年月日: 平成19年5月29日 / 結論: 破棄自判
飛行場において離着陸する航空機の発する騒音等により周辺住民らが精神的又は身体的被害等を被っていることを理由とする損害賠償請求権のうち事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分は,判決言渡日までの分についても,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しない。 (補足意見及び反対意見がある。)
事件番号: 平成11(オ)887 / 裁判年月日: 平成14年4月12日 / 結論: 棄却
外国国家の主権的行為については,国際慣習法上,民事裁判権が免除される。