外国国家の主権的行為については,国際慣習法上,民事裁判権が免除される。
外国国家の主権的行為と民事裁判権の免除
民訴法第1編第2章 裁判所,日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定18条5項,憲法98条2項
判旨
外国国家の主権的行為については、国際慣習法上、民事裁判権が免除される。駐留米軍の航空機離発着は、その活動の目的および性質から主権的行為に該当するため、日本国の裁判権は及ばない。
問題の所在(論点)
外国国家を被告とする民事訴訟において、駐留米軍の公的活動としての航空機離発着行為に対し、我が国の民事裁判権が行使できるか。主権的行為に対する主権免除の成否が問題となる。
規範
外国国家に対する民事裁判権の免除(主権免除)に関し、国家の私法的・業務管理的行為については制限される傾向にあるものの、外国国家の「主権的行為」については、引き続き民事裁判権が免除されるという国際慣習法が認められる。したがって、特段の取決めがない限り、当該行為を対象とする差止請求および損害賠償請求に対し、我が国の裁判権は及ばない。
重要事実
上告人らは、横田基地に駐留するアメリカ合衆国軍隊の航空機による騒音被害を理由に、人格権侵害に基づき、夜間の航空機離発着の差止めと損害賠償を求めて合衆国を提訴した。原審は、日米地位協定18条5項の類推適用等により民事裁判権の免除を認め、訴えを却下した。
事件番号: 平成18(受)882 / 裁判年月日: 平成19年5月29日 / 結論: 破棄自判
飛行場において離着陸する航空機の発する騒音等により周辺住民らが精神的又は身体的被害等を被っていることを理由とする損害賠償請求権のうち事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分は,判決言渡日までの分についても,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しない。 (補足意見及び反対意見がある。)
あてはめ
本件における米軍機の離発着は、我が国に駐留する合衆国軍隊の公的活動そのものである。この活動は、その「目的」ないし「行為の性質」に照らせば、国家による公権力の行使を伴う「主権的行為」であることは明らかである。また、日本国と合衆国との間において、本件のような行為に関し、合衆国が我が国の裁判権に服するという特段の取決めが存在するとは認められない。
結論
被告である合衆国は、主権的行為について国際慣習法上の民事裁判権免除を享受するため、本件訴えは不適法であり却下されるべきである。
実務上の射程
外国国家を相手方とする訴訟における裁判権の有無が問われる場面(民事訴訟法上の「裁判権」の欠如)で活用する。行為の性質が「主権的行為」か「私法的行為」かを区分する基準(行為の目的・性質)を示しつつ、軍事活動については広範に主権免除を認める規範として機能する。
事件番号: 昭和62(オ)58 / 裁判年月日: 平成5年2月25日 / 結論: その他
一 民事上の請求として自衛隊の使用する航空機の離着陸等の差止め及び右航空機の騒音の規制を求める訴えは不適法である。 二 国が日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に基づきアメリカ合衆国に対し同国軍隊の使用する施設及び区域として飛行場を提供している場合において、国に対し右軍隊の使用する航空機の離着陸等の差…
事件番号: 平成27(行ヒ)512 / 裁判年月日: 平成28年12月8日 / 結論: その他
1 自衛隊が設置し,海上自衛隊及びアメリカ合衆国海軍が使用する飛行場の周辺に居住する住民が,当該飛行場における航空機の運航による騒音被害を理由として,自衛隊の使用する航空機の毎日午後8時から午前8時までの間の運航等の差止めを求める訴えについて,①上記住民は,当該飛行場周辺の「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」…
事件番号: 平成4(オ)1180 / 裁判年月日: 平成6年1月20日 / 結論: 棄却
民事上の請求として、運輸大臣が設置し、管理する空港整備法二条一項二号所定の第二種空港を民間航空機の離着陸に使用させることの差止めを求める訴えは、不適法である。
事件番号: 昭和37(あ)994 / 裁判年月日: 昭和38年12月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】日米安全保障条約のように、主権国としての存立の基礎に関わる高度の政治性を有する国家の行為は、一見極めて明白に違憲無効と認められない限り、司法審査の範囲外となる。また、日本が指揮権を有しない外国軍隊の駐留は、憲法9条2項前段が禁止する「戦力」には該当しない。 第1 事案の概要:被告人らは、アメリカ合…