被告人が暴力団員との間で当該暴力団員に土地の所有権を取得させる旨の合意をし,被告人が代表者を務める会社名義で当該土地を売主から買い受けた場合において,当該土地につき売買契約を登記原因とする所有権移転登記等を当該会社名義で申請して当該登記等をさせた行為について,売買契約の締結に際し当該暴力団員のためにする旨の顕名が一切なく,当該売主が買主は当該会社であると認識していたなどの本件事実関係(判文参照)の下では,当該登記等は当該土地に係る民事実体法上の物権変動の過程を忠実に反映したものであり,これに係る申請が電磁的公正証書原本不実記録罪にいう「虚偽の申立て」であるとはいえず,また,当該登記等が同罪にいう「不実の記録」であるともいえない。
土地につき所有権移転登記等の申請をして当該登記等をさせた行為が電磁的公正証書原本不実記録罪に該当しないとされた事例
刑法157条1項,刑法158条1項
判旨
不動産登記の不実記録の成否は、登記が民事実体法上の物権変動の過程を忠実に反映しているかにより判断すべきであり、暴力団員が真の買主であっても、売買契約の当事者が名義人である以上、当該名義人への登記は不実といえない。
問題の所在(論点)
真の買主(資金拠出者等)と契約名義人が異なる「名義借り」による不動産売買において、名義人への所有権移転登記を行うことが、電磁的公正証書原本不実記録罪における「虚偽の申立て」および「不実の記録」に該当するか。
規範
不動産登記に係る電磁的公正証書原本不実記録罪(刑法157条1項)の成否は、登記が不動産に係る民事実体法上の物権変動の過程を忠実に反映しているか否かという観点から判断すべきである。具体的には、売買契約における当事者が誰であるかを確定し、その契約によって実体法上の所有権移転が認められる場合には、その名義人への登記は「不実の記録」には当たらない。
重要事実
事件番号: 平成17(あ)204 / 裁判年月日: 平成17年12月13日 / 結論: 棄却
甲社の増資の際,新株の引受人である乙社が,甲社から丙社,丙社から乙社へと順次融資により移動した甲社の資金により新株の払込みをし,上記融資により甲社が取得した丙社に対する債権が丙社との合意などから甲社の実質的な資産と評価することができないなど判示の事情の下においては,上記払込みは無効であり,甲社の商業登記簿の原本である電…
暴力団幹部Bは、不動産業者Cを介し、被告人名義で会合用の土地を購入しようと計画した。被告人は名義貸しを承諾し、被告人が代表を務めるA社を名目上の買主として土地売買契約を締結した。契約に際し、被告人はA社代表として立ち会い代金を支払ったが、Bの存在は顕名されず、売主もA社を契約相手と認識していた。なお、購入資金は全てBが出えんしていた。検察官は、真実の買主はBであり、A社名義の登記は不実であるとして起訴した。
あてはめ
本件各売買契約において、買主の名義はA社であり、被告人がA社代表として契約書作成や代金支払を行っている。Bのために契約する旨の顕名は一切なく、売主もA社を当事者と認識していた。そうすると、民実法上の契約当事者は売主とA社であり、所有権は売主からA社に移転したと認められる(顕名主義の例外も認められない)。Bとの間で名義貸しの合意や資金提供があっても、それは内部的な事情に過ぎず、A社への移転登記は実体法上の物権変動の過程を忠実に反映している。したがって、不実の記録とはいえない。
結論
本件各土地のA社名義への所有権移転登記等は、実体法上の物権変動に合致しており、電磁的公正証書原本不実記録罪および同供用罪は成立しない。
実務上の射程
不動産登記に関する不実記録の判断基準を「実体法上の物権変動との合致」に求めた重要な判例。資金源や動機が不当であっても、契約の有効性や当事者確定の法理により実体法上の移転が認められれば、登記の公共的信用は害されないとする。答案では、まず民事上の所有権帰属を確定させた上で、不実性の有無を論じるべきである。
事件番号: 昭和41(あ)2069 / 裁判年月日: 昭和46年2月23日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】不動産の所有権移転につき、金融を得やすくする等の目的で、真実権利を移転する意思をもってなされた登記申請は、仮に売買を原因とする形式を採ったとしても公正証書原本不実記載罪における「不実の記録」には当たらない。権利移転の実体的な効果意思が認められる限り、虚偽の意思表示による不実の記載とはいえない。 第…
事件番号: 昭和38(あ)2436 / 裁判年月日: 昭和39年6月2日 / 結論: 棄却
被告人は登記簿上の建物所有名義人甲との間に現実の売買の事実がないのに拘らず、売買契約が成立した旨虚偽の証書を作成し、売買を登記原因として所有権移転登記を申請し、その旨登記簿原本に記載させるなど原判示所為に出たものであるときは、たとえ、右建物の真実の所有者が被告人であり、甲が将来その登記名義を被告人に変更することを予め諒…
事件番号: 昭和63(あ)756 / 裁判年月日: 平成元年2月17日 / 結論: 棄却
不動産登記法三〇条、三一条に基づく官公署の登記の嘱託も、刑法一五七条一項にいう「申立」に当たる。
事件番号: 平成16(あ)955 / 裁判年月日: 平成16年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】株主総会議事録、取締役会議事録、および株式会社変更登記申請書の作成名義人は、個別の取締役や代表取締役個人ではなく、当該会社自体(あるいは株主総会・取締役会という機関)であると解するのが相当である。 第1 事案の概要:被告人は、作成権限がないにもかかわらず、A株式会社の臨時株主総会議事録および同社取…