甲社の増資の際,新株の引受人である乙社が,甲社から丙社,丙社から乙社へと順次融資により移動した甲社の資金により新株の払込みをし,上記融資により甲社が取得した丙社に対する債権が丙社との合意などから甲社の実質的な資産と評価することができないなど判示の事情の下においては,上記払込みは無効であり,甲社の商業登記簿の原本である電磁的記録に上記増資の記録をさせた行為は,電磁的公正証書原本不実記録罪に当たる。
新株の引受人が会社から第三者を通じて間接的に融資を受けた資金によってした新株の払込みが無効であるとして商業登記簿の原本である電磁的記録に増資の記録をさせた行為につき電磁的公正証書原本不実記録罪の成立が認められた事例
商法280条の7,刑法157条1項
判旨
銀行が第三者に対し、自己の株式引受代金に充当するための資金を迂回融資し、実質的に自己の資金で払込みを行わせた場合、当該払込みは株式の払込みとしての効力を有しない。このような不実の事実を商業登記簿等に記載させる行為は、電磁的公正証書原本不実記録罪を構成する。
問題の所在(論点)
銀行が自ら資金を供給して自己の株式を譲受人に取得させる「迂回融資による増資」が、電磁的公正証書原本不実記録罪(刑法157条1項)における「不実の記録」に該当するか。すなわち、当該払込みが有効な株式の払込みといえるかが問題となる。
規範
株式会社の増資に際し、会社から引受人に対して払込資金が提供され、会社資金が回帰したに過ぎない場合(いわゆる見せ金や仮装の払込み)、それが実質的に会社の資金によりなされたものであり、かつ、会社が取得した引受人等に対する債権が実質的な資産と評価できないときは、当該払込みは株式の払込みとしての効力を有しない。
重要事実
E銀行の役員ら(被告人ら)は、早期是正措置を回避するための資本増強を目的として第三者割当増資を実施した。その際、E銀行の実質的支配下にあるファミリー企業等(F社ら)に新株を割り当てたが、その払込資金は、E銀行が消費者金融業者等を経由してF社らに迂回融資したものであった。さらにE銀行は、F社らが消費者金融業者等に返済しない限り、当該業者らに対して貸金債権の返済を求めない旨の合意をしており、かつF社らには自力返済能力がなかった。
事件番号: 平成26(あ)1197 / 裁判年月日: 平成28年12月5日 / 結論: 破棄自判
被告人が暴力団員との間で当該暴力団員に土地の所有権を取得させる旨の合意をし,被告人が代表者を務める会社名義で当該土地を売主から買い受けた場合において,当該土地につき売買契約を登記原因とする所有権移転登記等を当該会社名義で申請して当該登記等をさせた行為について,売買契約の締結に際し当該暴力団員のためにする旨の顕名が一切な…
あてはめ
本件各払込みは、E銀行の資金が転々流通してF社らに移動しただけであり、実質的にはE銀行の自己資金によるものに他ならない。また、E銀行が取得した消費者金融業者らに対する貸金債権は、F社らからの返済が条件とされている上、F社らに返済能力がない以上、実質的な資産とは評価できない。したがって、形式的には払込みの体裁をなしていても、資本充実の原則に照らし、株式の払込みとしての効力を有しない。
結論
本件各払込みは無効であり、増資が有効になされたかのように装って商業登記簿等の電磁的記録に記録させた行為は、不実の記録に該当する。したがって、電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪が成立する。
実務上の射程
会社法上の「仮装の払込み」の有効性に関する刑事上のリーディングケースである。答案上は、単なる資金の移動があるだけでなく、会社が取得した代わりの債権(貸金債権等)に実質的価値がないことを指摘することが、払込みを「無効(不実)」と断じるためのポイントとなる。
事件番号: 平成20(あ)2253 / 裁判年月日: 平成21年3月26日 / 結論: 棄却
甲会社から乙及び丙に順次譲渡されたものの,所有権移転登記が未了のため甲会社が登記簿上の所有名義人であった建物を,甲会社の実質的代表者として丙のために預かり保管していた被告人が,甲会社が名義人であることを奇貨とし,乙及び丙から原状回復にしゃ口して解決金を得ようと企て,上記建物に係る電磁的記録である登記記録に不実の抵当権設…
事件番号: 昭和62(あ)1283 / 裁判年月日: 平成3年2月28日 / 結論: 棄却
増資の際、株式の払込みは、当初から真実の払込みとして会社資金を確保させる意図はなく、会社と名目的な引受人との合意に基づき、引受人が会社自身又は他から一時借り入れた金員をもって単に払込みの外形を整えた後、会社において直ちに右払込金を払い戻して、借入金の返済等に充て、あるいは払込金を会社名義の定期預金とした上これに質権を設…
事件番号: 昭和38(あ)1593 / 裁判年月日: 昭和40年10月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公正証書原本不実記載罪の成否については、個々の登記事項ごとに不実の有無を論ずれば足り、設立の登記自体が不実であるか否かを問題とする必要はない。もっとも、株式引受の実体がなく、払込を仮装し、創立総会も開催されていない場合には、登記事項はすべて不実であり同罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人らは、…
事件番号: 昭和41(あ)961 / 裁判年月日: 昭和42年12月14日 / 結論: 破棄差戻
増資にあたり、株式引受人の会社に対する債権が真実に存在し、かつこれを弁済する資力が会社にある場合には、会社が株式払込取扱銀行から金融を受けて株式引受人に対する債務を弁済し株式引受人が右弁済金を引受株式の払込金に充当するという払込方法がとられたとしても、直ちに商法第四九一条の預合罪および応預合罪が成立するとはいえない。