甲会社から乙及び丙に順次譲渡されたものの,所有権移転登記が未了のため甲会社が登記簿上の所有名義人であった建物を,甲会社の実質的代表者として丙のために預かり保管していた被告人が,甲会社が名義人であることを奇貨とし,乙及び丙から原状回復にしゃ口して解決金を得ようと企て,上記建物に係る電磁的記録である登記記録に不実の抵当権設定仮登記を了した場合には,電磁的公正証書原本不実記録罪及び同供用罪とともに,横領罪が成立する。
他人所有の建物を同人のために預かり保管していた者が,金銭的利益を得ようとして,同建物の電磁的記録である登記記録に不実の抵当権設定仮登記を了したことにつき,電磁的公正証書原本不実記録罪及び同供用罪とともに,横領罪が成立するとされた事例
刑法252条1項,刑法157条1項,刑法158条1項,不動産登記法106条
判旨
不動産の保管者が、不法に利益を得る目的で、実体のない虚偽の債務に基づき対象不動産に抵当権設定仮登記を完了させる行為は、不法領得の意思の発現として横領罪を構成する。また、この場合において横領罪と電磁的公正証書原本不実記録罪・同供用罪が併せて成立し、これらは観念的競合の関係に立つ。
問題の所在(論点)
不動産の保管者が、不法な利益を得る目的で、虚偽の抵当権設定仮登記を了した行為が、横領罪(刑法252条1項)における不法領得の意思の発現(処分行為)として認められるか。また、不実記録罪等との罪数関係はどうなるか。
規範
横領罪における「領得」とは、他人の物の占有者が委託の趣旨に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思(不法領得の意思)を実現することをいう。不動産の場合、抵当権の設定行為もこれに含まれるところ、不実の仮登記であっても、それに基づき本登記を経ることで後位の権利変動に対し優先し得ること、実務上その権利が確保されているものとして扱われることから、不法領得の意思を実現する行為として十分である。
事件番号: 昭和41(あ)2069 / 裁判年月日: 昭和46年2月23日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】不動産の所有権移転につき、金融を得やすくする等の目的で、真実権利を移転する意思をもってなされた登記申請は、仮に売買を原因とする形式を採ったとしても公正証書原本不実記載罪における「不実の記録」には当たらない。権利移転の実体的な効果意思が認められる限り、虚偽の意思表示による不実の記載とはいえない。 第…
重要事実
被告人は、裁判上の和解に基づき実質的所有権が譲受人に移転したものの、登記名義が依然として被告人の代表する会社(A社)にある建物について、譲受人のために預かり保管中であった。被告人は共犯者らと共謀し、解決金を得る目的で、真実は存在しない5億円の借入・抵当権設定契約を装い、第三者(E会)を権利者とする抵当権設定仮登記を了した。この行為につき、不実の仮登記にすぎないことから横領罪が成立するかが争われた。
あてはめ
本件における仮登記は、A社とE会との間の金銭消費貸借契約等が虚偽であり不実のものである。しかし、仮登記であっても、本登記を経ることで後位の登記に対し優先する順位保全的効力を有する。不動産取引の実務においても、仮登記がなされれば当該権利が確保されているものとして扱われるのが通常である。したがって、被告人が自己の管理下にある建物について、恣意的に利得を図る目的でこのような仮登記を了したことは、委託の趣旨に背いて所有者でなければなし得ない処分をしたものと評価でき、不法領得の意思の実現として十分である。なお、虚偽の登記申請という一連の行為により横領罪と不実記録罪等の要件を共に満たす場合、両罪の成立を認めることは不合理ではなく、観念的競合となる。
結論
被告人の行為には横領罪が成立する。また、不実記録電磁的公正証書原本供用罪と横領罪は観念的競合となる。
実務上の射程
抵当権の本登記のみならず、不実の仮登記の段階であっても横領罪の既遂が認められることを明確にした。答案上では、仮登記の「順位保全的効力」や「実務上の信頼」という実質的法益侵害の可能性を指摘することで、不法領得の意思の発現を論証する。罪数については、1個の登記申請行為を捉えて観念的競合とするのが標準的な処理となる。
事件番号: 平成26(あ)1197 / 裁判年月日: 平成28年12月5日 / 結論: 破棄自判
被告人が暴力団員との間で当該暴力団員に土地の所有権を取得させる旨の合意をし,被告人が代表者を務める会社名義で当該土地を売主から買い受けた場合において,当該土地につき売買契約を登記原因とする所有権移転登記等を当該会社名義で申請して当該登記等をさせた行為について,売買契約の締結に際し当該暴力団員のためにする旨の顕名が一切な…
事件番号: 平成17(あ)204 / 裁判年月日: 平成17年12月13日 / 結論: 棄却
甲社の増資の際,新株の引受人である乙社が,甲社から丙社,丙社から乙社へと順次融資により移動した甲社の資金により新株の払込みをし,上記融資により甲社が取得した丙社に対する債権が丙社との合意などから甲社の実質的な資産と評価することができないなど判示の事情の下においては,上記払込みは無効であり,甲社の商業登記簿の原本である電…
事件番号: 昭和41(あ)2732 / 裁判年月日: 昭和42年8月28日 / 結論: 棄却
甲から金員を騙取するため、乙名義の偽造の委任状等を登録官吏に提出し、乙の不動産の登記簿の原本に抵当権が設定された旨の不実の記載をさせて、これを行使するとともに、甲にその登録済権利証を示して、抵当権設定登録を経由した旨誤信させ、同人から借用金名下に金員を騙取したときは、公正証書原本不実記載罪とその行使罪と詐欺罪との牽連犯…
事件番号: 昭和27(あ)1046 / 裁判年月日: 昭和28年8月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の売却周旋の依頼を受けて土地を売却した者が、その売却代金を領得した場合には、横領罪(刑法252条1項)が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、土地の所有者から当該土地の売却周旋(事実上の売却委任)の依頼を受けていた。被告人はこの依頼に基づき土地を売却したが、その際に得た売却代金を、本来の委…