匿名組合契約の営業者であるY1社が,その営業として,新たに設立される株式会社A社の資本金の8割を出資し,A社の発行する新株予約権付社債を引き受け,A社がY1社の代表取締役であるY2及びその弟であるY3から売買によりB社株式を取得した場合において,次の(1)及び(2)など判示の事情の下では,上記の出資,引受け及び売買に係る匿名組合員であるXの承諾の有無について審理判断することなく,Y1社に善管注意義務違反はないとした原審の判断には,違法がある。 (1) 上記売買は,Y1社らがA社設立時に予定し,A社の代表取締役であるY3において実行したものであり,上記の出資,引受け及び売買はY1社による一連の行為といえるところ,上記一連の行為は,これによりY1社に生ずる損益が匿名組合契約に基づき全部Xに分配されるものであり,Y2及びY3とXとの間に実質的な利益相反関係が生ずるものであった。 (2) 上記売買の売主であるY2及びY3が買主であるA社の取締役や代表取締役であること,B社株式に市場価格はなくXが売買代金額の決定に関与する機会もないこと,上記の出資及び引受けの合計額は1億8000万円であり,上記売買の代金額は1億5000万円であって,いずれも匿名組合契約に基づくXの出資額である3億円の2分の1以上に及ぶものであることに照らすと,上記一連の行為はXの利益を害する危険性の高いものであった。 (補足意見がある。)
匿名組合契約の営業者が新たに設立される株式会社に出資するなどし,同社が営業者の代表者等から売買により株式を取得した場合において,営業者に匿名組合員に対する善管注意義務違反はないとした原審の判断に違法があるとされた事例
商法535条,民法415条
判旨
匿名組合契約の営業者が、匿名組合員と実質的な利益相反関係にあり、その利益を害する危険性の高い一連の行為を行うことは、匿名組合員の承諾を得ない限り、善管注意義務に違反する。本件のように、営業者が出資した子会社を通じて営業者の役員等から高額な資産を買い受ける取引は、匿名組合員への損益分配関係に鑑み、実質的な利益相反にあたると判断された。
問題の所在(論点)
営業者が、出資した別会社(子会社)を通じて、自らの代表者やその親族等の利害関係人と取引を行うことが、匿名組合員に対する善管注意義務違反を構成するか。特に、形式的には営業者自身の直接取引ではない場合に、実質的な利益相反を認めるべきかが問題となる。
規範
匿名組合の営業者が、匿名組合員との間に実質的な利益相反関係が生じ、かつ、匿名組合員の利益を害する危険性の高い一連の行為を行うことは、原則として、匿名組合員の承諾を得ない限り、営業者の善管注意義務(商法535条、民法644条参照)に違反する。
重要事実
匿名組合員Xは、営業者Y1(代表者Y2)との間で、Y1の有価証券運用事業に対し3億円を出資する匿名組合契約を締結した。Y2とその弟Y3は、自ら新設した会社Cの株式(本件株式)を保有していたが、Y1は子会社Dを設立し、Xからの出資金を用いてDに1億8000万円を投じた。Dは、その資金の大半(1億5000万円)を費やして、Y2・Y3から本件株式を買い受けた。この取引価格の決定にXは関与しておらず、市場価格も存在しなかった。
あてはめ
まず、本件匿名組合契約では運用損益の全部がXに分配されるため、Dの利益・不利益はY1を通じて実質的にXに帰属する。そのため、DがY1の役員等(Y2・Y3)から株式を買い受ける行為は、実質的にXと利害関係人との利益相反関係を生じさせる。次に、本件株式に市場価格がなく、Xが代金決定に関与する機会もないこと、さらに取引額がXの総出資額の過半に及ぶことから、Xの利益を害する危険性は極めて高い。したがって、このような一連の行為はXの承諾がない限り善管注意義務に違反すると評価される。
結論
営業者Y1がXの承諾を得ていないのであれば、善管注意義務違反による債務不履行責任を免れず、役員Y2らも不法行為責任や会社法429条1項に基づく責任を負いうる。原審の善管注意義務違反を否定した判断は法令の違反があるため、破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
匿名組合において、営業者が直接取引を行う場合(自己取引)だけでなく、子会社やダミー会社を経由した間接的な取引であっても、経済的実態として組合員に損益が帰属し、かつ利益を害する蓋然性が高い場合には、実質的な利益相反として善管注意義務違反を問い得ることを示した。答案上は、信託的要素の強い契約類型における誠実義務の具体化として活用すべき射程を持つ。
事件番号: 平成31(受)6 / 裁判年月日: 令和2年3月6日 / 結論: 破棄差戻
所有名義人がAである不動産について,Aを売主,Bを買主とする売買契約,Bを売主,Xを買主とする売買契約,Xを売主,Cを買主とする売買契約が順次締結され,AからBへの所有権移転登記の申請(以下「前件申請」という。)及びBから中間省略登記の方法によるCへの所有権移転登記の申請(以下「後件申請」という。)が同時にされたが,前…