1 普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して行う契約の締結には,民法108条が類推適用される。 2 普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表するとともに相手方を代理し又は代表して契約を締結した場合において,議会が長による上記行為を追認したときは,民法116条の類推適用により,当該普通地方公共団体に法律効果が帰属する。 3 市の事業である博覧会の準備及び開催運営を行うことを唯一の目的として設立された財団法人が上記事務を行ったが,博覧会の入場料収入等だけではその開催運営経費を賄いきれないことから,市がその収支の赤字を回避する目的で当該法人との間で博覧会の施設及び物品を買い受ける旨の契約を締結したことにつき,市が当該法人に博覧会の具体的な準備及び開催運営を行うことをゆだねたものとして両者間に実質的にみて準委任的な関係が存したものと解する余地があり,市に上記赤字を補てんする法的義務があると解する余地も否定することができないという事情の下においては,博覧会の準備及び開催運営に関する両者の関係の実質,当該法人が行った博覧会の準備及び開催運営の内容並びにこれに関して支出された費用の内訳を確定することなく,市長及びその代決者に裁量権の逸脱,濫用があるとした原審の判断には,違法がある。 (1につき補足意見がある。)
1 普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して行う契約の締結と民法108条の類推適用 2 普通地方公共団体の議会が長による民法108条に違反する契約締結行為を追認した場合における当該行為の法律効果の帰属 3 市の事業である博覧会の開催運営等を行った財団法人と市との間でされた博覧会の施設等の売買契約の締結につき市長等に裁量権の逸脱,濫用があるとした原審の判断に違法があるとされた事例
地方自治法(平成11年法律第87号による改正前のもの)96条,地方自治法147条,地方自治法149条,地方自治法(平成14年法律第152号による改正前のもの)234条,民法108条,民法113条1項,民法116条,民法650条,民法656条
判旨
普通地方公共団体の長が当該団体を代表し、かつ相手方を代表・代理して行う契約には民法108条が類推適用されるが、議会が当該行為を追認したときは同法116条の類推適用により当該団体に法律効果が帰属する。
問題の所在(論点)
1. 地方公共団体の長が相手方を兼ねて締結した契約に民法108条が類推適用されるか。 2. 上記契約が双方代理に該当する場合、議会の追認(民法116条類推適用)によって有効となるか。
規範
1. 普通地方公共団体の長が当該団体を代表し、同時に相手方を代表・代理して契約を締結する行為には、利益相反による弊害を防止するため、民法108条が類推適用される。 2. 上記の双方代理による無権代理行為であっても、民法116条が類推適用される。したがって、議会が長による当該行為を追認したときは、議会の意思に沿って、本人である地方公共団体に法律効果が帰属する。
重要事実
名古屋市(市長A)は、市制100周年事業として「世界デザイン博」を開催するため、Aが会長を兼任する財団法人(協会)を設立した。博覧会の収支悪化が判明したため、市は協会の赤字回避を目的として、同協会から施設・物品を総額約10億円で買い受ける契約を締結した。この際、契約書の多くは市長Aが市代表と協会代表を兼ねる形で作成された。その後、市議会は本件各契約を認識した上で、関連予算の可決や決算の認定を行った。
あてはめ
1. 本件各契約は、形式的には代決等の手続が取られていても、対外的には市長Aの名で行われており、市と協会の双方をAが代表する双方代理行為に該当する。したがって、原則として無権代理行為となる。 2. もっとも、名古屋市議会は、本件各契約の事実を十分に認識した上で、関連する特別委員会での審査、予算の可決、及び決算の認定を行っている。これら議会の意思表示は、無権代理行為に対する「追認」にあたると評価できる。
結論
本件各契約には民法108条が類推適用されるが、市議会による追認が認められるため、民法116条の類推適用により、契約の効果は名古屋市に帰属する(有効である)。
実務上の射程
地方自治法上の「長」の代表権の制限に関する重要判例。行政主体と外郭団体の利益相反場面において、私法法理(民法108条、116条)を類推適用する枠組みを示した。答案上は、住民訴訟における契約の効力や、長の損害賠償責任を検討する際の前提論理として活用する。
事件番号: 昭和43(オ)1044 / 裁判年月日: 昭和48年6月7日 / 結論: 棄却
不法行為による損害賠償についても、民法四一六条の規定が類推適用され、特別の事情によつて生じた損害については、加害者において右事情を予見しまたは予見することを得べかりしときにかぎり、これを賠償する責を負うものと解すべきである。